Hiroshi Maejima |
Faculty of Health Sciences Health Sciences Department of Rehabilitation Science |
Professor |
【はじめに,目的】
加齢に伴い,神経機能の低下を引き起こす。走行運動における神経栄養因子に着目した先行研究では,脊髄内において神経栄養因子の活性化が報告されているが,対象が成体ラットであり,週齢の違いによる運動の影響は明らかではない。本研究では,神経生存や維持に関わる神経栄養因子と神経可塑性に関する他の因子との関連性を明らかにすることを目的とした。
【方法】
Wistar系雄性ラット10週齢(走行群5匹,非走行群3匹),6ヶ月週齢(走行群5匹,非走行群3匹),1年齢(走行群5匹,非走行群3匹),2年齢(走行群5匹,非走行群3匹)を対象とした。走行群は,小動物用トレッドミルにて,走行速度5.8m/min,走行時間1時間の条件で運動を課した。走行群,非走行群とランダムに分けた。実験終了後,脊髄(L3-5)を摘出し,total RNAを抽出した。逆転写反応により作成したcDNAを鋳型とし,神経栄養因子発現と他の神経形成関連因子,神経ペプチド,アポトーシス関連因子,神経突起伸長関連分子発現動態について,PCR array法(84遺伝子)により検出した。各週齢の非走行運動に対する走行群において2倍以上の発現を認めた遺伝子を抽出した。
【結果】
非走行群に対して2倍以上の遺伝子発現が検出された項目について結果は,10週齢では,高発現遺伝子は,検出されなかったが,低発現遺伝子は,3遺伝子(細胞分化関連遺伝子)であった。6ヶ月齢では,高発現遺伝子は,検出されなかったが低発現遺伝子は,23遺伝子(神経栄養因子一受容体,神経新生,成長因子,アポトーシス関連因子)であった。1年齢では,高発現遺伝子は6遺伝子(神経栄養因子一受容体,神経ペプチド),低発現遺伝子は,1遺伝子(アポトーシス)であった。2年齢は,高発現遺伝子は26遺伝子(神経栄養因子一受容体,神経ペプチド,神経新生),低発現遺伝子は,1遺伝子(アポトーシス)であった。
【結論】
長期の運動を行うことにより,神経栄養因子,神経形成成長因子等が選択的に増加し,アポトーシス因子が低発現となった。神経栄養因子が運動によって脊髄神経自体での発現が増加したことや,末梢器官で発現したその因子が脊髄内の血管や神経の逆行性輸送によって脊髄へ到達し,脊髄内のmRNA発現量が上昇し,脊髄神経が活性化されている事が示唆された。運動による機能改善は,神経単独ではなく,神経活動を活性化させる関連因子について多面的な機能連関での分析が必要となる。また週齢による遺伝子発現活性化の違いも明らかとなった。神経生存に作用する因子の影響を多面的に解析する事により,神経可塑性に対する運動の効果を明らかにできる可能性がある。
【はじめに,目的】
我々は,底部が円状のバランスボード練習にて,姿勢安定性が向上することを報告した(Mani, et al., 2016)。しかしながら,関節角度の変位量のみでは,姿勢戦略の順応効果は明確にはならなかった。バランスボード上の立位では,支持基底面(Base of support:BOS)が狭く,BOSが不規則に移動することから,足関節と股関節を協調的に用いる多関節戦略が用いられることが推察される(Ooteghem, et al., 2009)。本研究の目的は,楕円解析と相互相関関数を用いて,バランスボード上立位の姿勢戦略の順応効果を示すこととした。楕円解析とは,課題中の足関節と股関節角度を二次元座標にプロットし,楕円をフィッティングさせ,その楕円の形状や傾きから両関節間の関連性を明らかにする方法である(de Lima, et al., 2014)。本研究の結果は,バランスボード練習により構築される運動パターンを示す基礎的資料となる。
【方法】
健常若年者17名(男性12名,22.8±1.1歳)を対象とした。被験者は矢状方向のみ不安定となる底部が円状のボード上で,できるだけ長く安定して保つように指示された。各被験者90秒以上保持できるようになるまで実施した。三次元動作解析装置および床反力計を用いて,保持時間,足圧中心点と体重心間の距離(COP―COM間距離),および下肢関節可動域(Range of motion:ROM)を算出した。楕円解析として,足関節角度を横軸,股関節角度を縦軸とした二次元座標プロットから,楕円面積,離心率,中心座標,および長軸の傾きを算出した。離心率が大きく,長軸の傾きが±1に近いほど多関節戦略,ゼロに近いほど足関節戦略が優位であると解釈される。さらに,姿勢制御変数であるCOP―COM間距離の変化量(⊿COP―COM)と各関節運動(⊿ROM)との関連性を,相互相関関数を用いて,相関係数の最大値および時間差から分析した。1回目の施行(練習前)と90秒以上保持出来た最後の施行(練習後)を対応のあるt検定を用いて比較した。危険率は5%とした。
【結果】
平均保持時間は練習後有意に延長した(p<0.01)。楕円解析の結果,練習後,離心率は有意に増大し,楕円面積および長軸の傾きは有意に減少した(p<0.05)。さらに,相互相関関数の結果,⊿COP-COMと⊿足関節ROMとの相関係数が有意に増大し,時間差が有意に減少した。一方,股関節と膝関節は,いずれも⊿COP-COMとの相関係数に有意差を認めなかった。
【結論】
バランスボード練習により,股関節と足関節ともに関節運動は減少する一方,股関節に比して足関節を主体とした戦略となる。また,相互相関関数の結果から,練習後,足関節を協調的に動かし重心を制御する戦略となることが示された。BOSが狭くとも底部が円状のような足関節での制御が可能な場合,中枢神経系は足関節戦略を強調することで,姿勢安定性を高めたと考えられる。姿勢戦略の構築には,BOSの大きさや足関節の自由度を考慮した課題設定が重要となることが示唆される。
【はじめに,目的】
後方へのステップ反応は,高齢者における日常生活の転倒と関連があると報告されている。非予測的な外乱方向の反復ステップ練習を行い,その効果を非予測条件で評価した研究が多く報告されている。しかし,高齢者を対象にした練習ではより安全に行える予測的な外乱方向の反復ステップ練習が望まれる。また,外乱後の姿勢反応はFeedforward制御の影響を受けることが示唆されているため,被験者自身が外乱を誘発する方法による練習効果も調べた。本研究の目的は,外乱方向が非予測的または予測的な条件,さらに被験者自身が外乱を誘発するため外乱方向およびタイミング共に予測的な条件における反復ステップ練習の効果について,非予測条件におけるステップ反応で比較検討することだった。
【方法】
対象は整形外科的・神経学的疾患がない健常若年者33名とし,外乱方向が予測できる反復ステップ練習をする群(以下,予測群とする。)(21.2±1.2歳),外乱方向が予測できない反復ステップ練習をする群(以下,非予測群とする。)(23.1±1.2歳),被験者自身がボタンを押して外乱を誘発する群(以下,自己誘発群とする。)(23.1±2.3歳)に11名ずつランダムに割り当てた。被験者は床面の外乱によりステップ反応が誘発された。予測群・自己誘発群は,後方へのステップ反応を誘発するために床面水平移動による前方外乱のみを60回,非予測群は前方・後方外乱を各30回(計60回)ランダムに与えられた。外乱のタイミングは予測群・非予測群はランダム,自己誘発群は被験者が意図したタイミングで行った。練習前後のテスト課題は外乱方向とタイミングはランダムに与えられた。解析対象は前方外乱に対する後方ステップのみとした。統計解析は二元配置分散分析(群間×テスト間)を用い,多重比較にTukey法を用いた。また, Pearsonの相関係数を用いた。有意水準は5%とした。
【結果】
練習前後のテスト間に主効果が認められ,ステップ長,ステップ速度およびステップ着地時安定性臨界が練習後有意に増加した(p<0.01)。群間に主効果は認められなかった。ステップ着地時安定性臨界のみ交互作用が認められ,予測群および非予測群は自己誘発群と比較して練習後有意に増加した(p<0.01)。さらに,ステップ着地時安定性臨界はステップ長,ステップ速度とそれぞれ有意な正の相関が認められた(r=0.75,r=0.75)。
【結論】
外乱方向およびタイミングが予測できない条件におけるステップ後の姿勢安定性は,自己誘発群よりも予測群および非予測群の方が向上し,予測群と非予測群では同程度の効果が期待できる。その要因として,ステップ長およびステップ速度の増加が挙げられる。外乱方向が予測的な反復ステップ練習は非予測的な反復ステップ練習に比して恐怖感といった心理的負担が少ないため,姿勢不安定性を有する高齢者や障害者には推奨される練習方法であると考えられる。