牧野 紗織, 川本 千春, 池田 考績, 吉原 久美子, 吉田 靖弘, 佐野 英彦
日本歯科保存学雑誌 (NPO)日本歯科保存学会 59 (1) 22 - 31 0387-2343 2016/02
[Not refereed][Not invited] 目的:近年,歯石の沈着防止やステイン除去の成分としてメタリン酸ナトリウムが注目されている.メタリン酸ナトリウムは安全性も担保されており,食品添加物,医薬品,医薬部外品のほか,歯磨剤やガムに添加されている.メタリン酸ナトリウムは,ハイドロキシアパタイト(HAp)と結合してステインを除去すると考えられるが,詳細は明らかではない.35%H2O2のオフィスブリーチング剤では,24時間は色の濃い飲食物を控えることが推奨されている.本研究では,メタリン酸ナトリウムのステイン除去効果に着目し,漂白後の着色抑制効果を分光測色計で,吸着をXRD・FTIRで評価した.材料と方法:松風のHi-Liteを用いて,健全ヒト抜去上顎切歯の唇側に漂白を行った後,分光測色計でCIE L*a*b*表色系により測色した.その後,1)処理を行っていない群(Con),2)メルサージュで研磨した群(Mer),3)フローデンフォームAを塗布した群(Flu),4)1%メタリン酸ナトリウム溶液に35分浸漬した群(SMP)に分け,各処理後にCon,Mer,Fluは唾液に120分,SMPは85分浸漬して37℃で保管した.その後,37℃のコーヒーに24,48,72時間保管し,コーヒー浸漬前後のΔE*,ΔL*,Δa*,Δb*を求めて,着色抑制効果を評価した.求めた値の比較はTukey testとGames-Howell testを用いて行った.メタリン酸ナトリウム水溶液に浸漬したエナメル質表面のSEM観察およびメタリン酸ナトリウム水溶液中で攪拌して作製したHApのXRDおよびFTIR分析を行った.結果:24,48,72時間後のΔE*では群間で有意差はなかった.一方,24時間後のΔL*ではSMP群が他群に対して有意に明度の低下が少なかったが,48,72時間では差がなかった.メタリン酸ナトリウム群のSEMではエナメル質が膜状の構造物に覆われており,XRD分析では,未反応のHApと同じ回折ピークが観察された.FTIR分析では,未反応のHApと同じスペクトルのほかに,メタリン酸ナトリウムに帰属される吸収ピークが確認された.結論:メタリン酸ナトリウムはエナメル質表層に吸着されるが,化学的な反応はないと考えられる.着色抑制効果に関しては,24時間まではコーヒーによる明度の低下を抑制したが,その効果は48,72時間は持続しなかった.(著者抄録)