日本学術振興会:科学研究費助成事業 一般研究(C)
Date (from‐to) : 1994 -1994
Author : 日比 孝之, 澁川 陽一, 齋藤 睦
近年,現代数学の様々な分野において離散構造の重要性が認識されてきた.古典的な組合せ論の研究対象である単体的複体,半順序集合や凸多面体に限っても,その面,鎖の個数や格子点の数え上げは可換代数や代数幾何と深い接点を持つことが判明し,更に,凸多面体の三角形分割の組合せ論は超幾何函数の理論などとの相互関係を保ちながら急激に進展している.このような現状において,当該研究の目的は(1)凸多面体の離散構造の研究を代数的側面から刺激し進展させること,及び(2)単体的複体に付随する可換代数の代数的不変量を組合せ論的に記述することであった.目的(1)について,当該年度は,整凸多面体P⊂R^Nに含まれる格子点の個数i(P,n)の母函数から定義されるδ-列の組合せ論的特徴付けを探究した.我々は,函数i(P,n)をHilbert函数とする可換整域A(P)を定義しその代数的振舞からPのδ-列の組合せ論的諸性質を研究した.更に,可換整域A(P)が次数1の元で生成されるならば,Pのδ-列はいわゆる上限定理型の不等式を満たすことに着目し,A(P)が次数1の元で生成されるための必要十分条件をPの組合せ論で記述することを試み,部分的な成果を得た.目的(2)について,当該年度は,単体的複体Δに付随するStanley-Reisner環k[Δ]のBetti数列を組合せ論的に記述する研究を遂行した.我々は,k[Δ]の有限自由分解が純となるような単体的複体Δを組合せ論的に分類することに挑戦したが,その際,計算代数の成果とグレブナ-基底の基礎理論を使って,計算機実験をしたことが有益であった.更に,Δが有限半順序集合Xの順序複体のとき,k[Δ]のBetti数列をXのメビウス函数を使って表示する方法を模索し,modular束Xの順序複体のCohen-Macaulay型を計算するための効果的な公式を発見した.