倉持 寛太, 佐久間 敏雄 日本土壌肥料学雑誌 60 (4) 298 -306 1989年
[査読無し][通常論文] 傾斜地畑土壌における浸潤・再分配過程の水移動に対する粗孔隙の影響を理解するため,重水(D_2O) をトレーサーとして用いた現地試験を行った。試験区は斜面上部(試験区I),斜面下部(試験区II)の2カ所に設けた。斜面方向5m,幅1m,深さ0.7mをビニールシートで遮水し試験区とした。斜面上部の土壌は中粒質酸性褐色森林土に,下部は細粒質暗色表層擬似グライ性褐色森林土に分類される。重水溶液(D/H 減資比 5000ppm,水深換算4 mm)を散布した後,約 30mm の降雨処理を行い,11日間重水を追跡した。 1)浸潤過程(降雨処理後1日以内)では,水移動は不均一であり,とくに心土では,重水の不規則な分布がみられた。試験区 I における心土の粗孔隙系は,直径10mm以上のルートチャンネル,試験区II のそれは構造面に沿った連続した割れ目状孔隙であった。水移動の不均一性はこのような粗孔隙によるバイパス効果によるものと思われた。試験区Iのような粗孔隙系は,メチレンブルー注入法によってその状態を示すことができた。微細なルートチャンネル(直径5 mm以下)は浸潤の初期段階において,気泡や土壌粒子によって閉塞されてしまうため,それより大きなルートチャンネルがバイパス効果を発揮すると考えられた。調査の結果,このような粗大なルートチャンネルの頻度は約3本/m^2 であることが示された。したがって,この種の土壌で水浸潤を測定するための試験区は,少なくとも1 m^2 は必要であるが示唆された。2)再分配過程(1〜11日目)の重水分布は,試験区土壌を特徴づける粗孔隙系の形態によって異なった。試験区I では,土壌マトリックス系の均一でゆっくりとした浸透が主体をなし,側方浸透はみられなかった。また,ルートチャンネルの不連続性により,バイパス効果によって深層に運ばれた水は,回りのマトリックス系へゆっくりと拡散していった。それに対し,試験区 IIでは,重水の分布が不均一で,B層下部での側方浸透が持続した。これはB層の割れ目状孔隙の連続性とCg層の透水性不良によると思われた。