形成期の惑星内部に取り込まれた初生水の D/H 比は地球と火星で異なるらしい.始原マントルにソースを持つと考えられる噴出岩中のメルト包有物中の H2O は,地球試料においては,星雲ガスを取り込んだことを示唆する低い D/H 比を示す一方で,火星試料においては,炭素質コンドライトに近い D/H 比を示す.両者の D/H 比の差異は,星雲内で集積する原始惑星上における原始大気の構造が惑星質量に依存しているためであるかもしれない.新たな一次元大気構造数値モデリングの結果によれば, 火星質量程度の原始惑星の場合,上層に星雲ガス成分,下層に衝突脱ガス成分からなる成層した混成型原始大気が形成し,接している原始マントルは材料物質に含まれる H2O の D/H 比を獲得することができる.これに対して,火星質量以上の原始惑星の場合,対流により起源の異なる両成分が混合し,下層大気の D/H 比は星雲ガスの値に接近する.これによって大質量の惑星の始原マントルは,星雲ガスに近い値の D/H 比を獲得できた可能性がある.
火星衛星Phobosからのサンプルリターンに挑む火星衛星探査計画 (Martian Moons eXploration: MMX) は,現在,宇宙航空研究開発機構 (JAXA) プリプロジェクトとして,2024年の打ち上げと5年の往還期間を設定し,精力的な検討・初期開発が進められている.MMXは,サンプル分析,Deimosを加えた火星衛星の近接観測,そして火星大気および火星圏のモニタリング観測を組み合わせることにより,惑星に寄りそう衛星という切り口と視座から,太陽系における大気と水を湛えたハビタブル惑星の形成と進化の解明に迫ろうとしている.
A planetary atmosphere is the gaseous layer that divides the planetary surface and surrounding space. Although the Earth's atmosphere occupies a tiny fraction of the total Earth's mass, it plays an essential role to make the Earth's surface environment circulating liquid-water that is thought to be the most fundamental condition for the emergence and evolution of the terrestrial life organisms. The vertical structure of Earth's atmosphere from the Earth's surface to the uppermost region that merges into space is strongly influenced by interactions with space.
最近の太陽系探査によって、地球以外の天体に液体の水が存在する(していた)証拠が続々と見つかっている。本発表は、これら天体上で水が駆動する化学反応や物質循環を解明することで、水が惑星の形成・進化に果たした役割を総合的に理解し、生命存在可能性の議論にまで至る「水惑星学」の創成を提案する。そのために、地球科学と惑星科学が有機的に融合し、はやぶさ2探査の機会を利用することで、太陽系天体の水・物質循環を記述する理論とその実試料による実証を両輪とする研究体系を構築する。これによる達成目標は、1)微惑星内の水・物質循環の解明と地球の水量の決定要因の理解、2)火星、氷衛星における水環境進化とエネルギー論に基づく生命圏の推定である。