縞状鉄鉱層中のクロムのホスト鉱物はクロムスピネルであるがその起源は明らかになっていない。本研究では縞状鉄鉱層の初期沈殿物を模した鉄、クロム水酸化物を合成しフロースルー型実験装置を用いて二価鉄を含む150℃の熱水と1週間反応させた。生成物の固体分析の結果から主生成物がゲーサイトでありさらにスピネル鉱物が生成していることがわかった。さらにSEM分析ではスピネル様の結晶が観察でき、TEM分析からスピネル鉱物と同様の面間隔の値を持つクロムを含むスピネル様の粒子の凝集体が観察されたことからクロムスピネルが熱水実験により合成されたことが明らかになった。
大酸化イベント以前の縞状鉄鉱層の形成プロセスについて、シアノバクテリアもしくは鉄酸化細菌が関与していたとする説が提案されている。本研究では約32億年前の南アフリカ・バーバトン緑色岩帯ムーディーズ層群の縞状鉄鉱層中有機物の各種分析から当時の生物活動に制約を与えることを目的とした。試料は磁鉄鉱に富むシルト質砂岩(MT)、炭酸塩に富み粒径の大きい石英を含む砂岩(SD)、粒径の小さい石英、緑泥石、黒雲母からなるシルト質砂岩(SS)に分類した。有機炭素含有量は鉄含有量の増加につれて減少する傾向がみられた一方、炭酸塩含有量と鉄含有量は正相関を示した。また有機物の形状は大部分が直径30 μm程度の円形ないし楕円形に近い鱗片状で、SD、SSにのみ長さ100μm以上のフィラメント状組織が見られた。以上の結果は、沿岸部の砂岩堆積場ではシアノバクテリアが、遠洋域のシルト質砂岩堆積場では鉄酸化細菌が生息していたことを示唆する。