ビーム断面上の偏光分布が二回対称で、直線偏光と円偏光を同時に持つポアンカレビームパルスを励起光に用いると、異なるスピン状態を持つ励起子の同時励起が可能である。本研究では、縮退四光波混合分光を用いたバルクGaN励起子励起およびストークス分解検出を行い、励起子スピンのコヒーレントダイナミクス測定を実現した。得られた信号光の空間偏光分布はT2時間内で励起光を良く反映しており、励起子スピンのコヒーレント状態保持を示すことができた。
超伝導は物理学における最も魅力的な現象の一つであり,カマリング・オネスによる発見から今日に至るまで多くの研究者を魅了してきた.なかでも液体窒素温度をはるかに上回る転移温度を示す銅酸化物は,いわゆる高温超伝導体のプロトタイプとして数多くの研究がなされ,今も新たな知見や問題提起が次々と報告されている.
超伝導状態では電子間に有効な引力が作用して電子対(クーパー対)が形成され,複数の電子対が位相をそろえて量子凝縮する.凝縮が起こると,フェルミ面近傍の電子スペクトルには,対演算子の期待値(ギャップ関数)によって特徴づけられるエネルギーギャップが開く.Bardeen–Cooper–Schrieffer (BCS) の理論によって説明される従来型超伝導では,格子振動(フォノン)を介した引力で形成される電子対がフェルミ面上に等方的なs波対称性を持つギャップを形成する.これに対して電子間に強い斥力の働く銅酸化物高温超伝導体のギャップは,有効な引力を獲得するために異方的なギャップ関数を持つと考えられており,フェルミ面上にギャップの節(ノード)を持つd波対称性を示す.また超伝導転移温度(Tc)以上でフェルミ面の一部に擬ギャップと呼ばれるギャップ構造が形成されることが知られており,特に反強磁性絶縁相に近いアンダードープ(UD)試料ではTcよりはるかに高温から観測される.擬ギャップの存在は銅酸化物高温超伝導体の最大の特徴であり,古くから精力的な研究がなされているが,超伝導の前駆現象から超伝導と共存/ 競合する秩序相など様々な解釈があり,結論を見ていない.また物質や測定手法に応じて多様な性質を示すため,ギャップの起源や形成メカニズムを決定するには,多面的かつ系統的な物性観測が必要とされている.
このように多彩な顔を持つ擬ギャップおよび超伝導ギャップと両者の関係性について,従来の実空間や運動量空間の観測手法に加え,超短光パルスを使った時間領域からのアプローチが行われるようになってきた.本稿では物性観測に広く使われる時間分解ポンププローブ分光をベースに,この手法が,これまで観測できなかった高温超伝導体のバルク性質を反映した対称性解析,および秩序形成の相関スケール解析へと拡張可能であることを示す.本稿で扱うポンププローブ分光では,ポンプ光を用いてギャップを形成する電子または正孔(キャリア)を瞬時的に破壊し,高エネルギー状態へと励起する.キャリアのエネルギー緩和に伴って生成される非平衡な準粒子やフォノンは(超伝導・擬ギャップに対応する)ギャップ関数の変化を反映し,ポンプ光に対して遅延時間を持つプローブ光の反射率変化として測定される.励起に使用する光子エネルギーはギャップエネルギーよりもはるかに大きいが,結晶内部への侵入長を大きく取れるため,バルク性質を反映する.拡張されたポンププローブ分光は,それぞれ超伝導ギャップおよび擬ギャップに起因する準粒子応答を一意に決定可能であり,超伝導前駆現象を反映する揺らぎ状態を含め,超伝導ギャップと擬ギャップの個性および両者の関係性をダイナミクスの観点から明らかにする.偏光応答に着目した対称性解析では,擬ギャップの形成温度T *以下で自発的な回転対称性破れが生じることが示される.他方,秩序形成ダイナミクスからは,擬ギャップが長距離相関のない局在状態を反映することが明らかとなる.