純粋失構音における病巣部位と発話症状との関係,定量的指標からみた発話特徴,脳血管疾患と変性疾患による症状の差異について解説した.脳血管疾患による失構音は,1)構音の歪み優位,2)音の途切れ優位,3)構音の歪みと音の途切れが同程度,4)音の途切れなし,の4タイプに分類できる可能性を指摘した.さらに,変性疾患による失構音においては,音の途切れが目立たないにも関わらず,発話所要時間の著明な延長が認められるタイプが存在する可能性が示唆された.最後に,失構音の評価・分類にあたっては,構音の歪み,音の途切れ,発話所要時間といった発話特徴に着目し,そのコントラストを検証することが有用である可能性を述べた.
補足運動野は,従来の補足運動野(SMA proper)と,その前方部の前補足運動野(preSMA)に区分され,tractographyを用いた線維連絡,fMRIを用いた機能的役割,脳損傷患者における臨床症状など,様々な視点から検討されている.左preSMA/SMAproperはいずれも,言語機能との関連が示唆されているが,特にpreSMAは前頭前野と豊富な線維連絡を持つことが知られ,言語機能に関しても重要な役割が指摘されている.臨床症状としては,左前頭葉内側面損傷で,補足運動野失語,純粋失書などが出現する.補足運動野失語は,自発話の低下と,「良好な視覚性呼称と顕著な語列挙低下」というコントラストが中核症状である.右前頭葉内側面損傷では,感情プロソディ障害が報告されている.左頭頂葉内側面に関しては,言語理解との関連が示唆されているが,詳細は明らかではない.前頭葉眼窩面は,言語機能自体には関連していないが,口述内容の方向性など,言語の運用に関係していることが示唆されている.
We need to understand aphasia in terms of two points of view. One is the viewpoint of system of language, and the other is the viewpoint of brain function. Language systems are hierarchically constructed, for instance, acoustic system (hearing and speech), phonetic system (discrimination of language sounds and articulation control), phonemic system and lexical/semantic system. Language impairments can be developed of each system as language symptoms. And there are corresponding lesion sites in the brain for each elementary language symptoms such as anarthrie/apraxia of speech, impairment of discrimination of language sound (word deafness), phonemic paraphasia, word comprehension impairment, word retrieval impairment and so on. Classical aphasia classification are vascular syndromes and can be explained as the syndromes made of the elementary symptoms.
前頭葉損傷患者における言語理解障害について, 「単語指示課題 (単語を提示され, それに該当する対象を選択肢から選んで指差す課題) 」, 「文命令課題 (文レベルの命令文を提示され, その通りに動作する課題) 」, 「構文検査」を用いて検討した。その結果, 前頭葉損傷患者における「単語指示課題」の低下は, 左中前頭回損傷と関係が深いこと, そして, その機序として, 語義の理解障害というよりも, 課題形式 (提示された単語に該当する対象を選択肢から選んで指差すという形式) に関係の深い障害である可能性が示唆された。また, 「文命令課題」の低下は, ブローカ野後部と関係が深いこと, そして, その機序として, 想定されている視点と異なる文のパターンに対しての, 対応の問題に由来する可能性が示唆された。