自然災害の諸要因が高校生の心理状態に及ぼす影響の検討 東日本大震災から1年4ヵ月後の高校生実態調査
船越 俊一, 大野 高志, 小高 晃, 奥山 純子, 本多 奈美, 井上 貴雄, 佐藤 祐基, 宮島 真貴, 富田 博秋, 傳田 健三, 松岡 洋夫
精神神経学雑誌 116 7 541 - 554 (公社)日本精神神経学会 2014年07月
[査読無し][通常論文] 東日本大震災発生後のメンタルヘルス・アウトリーチ活動の一環として,心理的支援に役立てるため,宮城県南部(沿岸部)の3つの高校の生徒のうち記名式調査に同意が得られた生徒計1,973名に対して質問紙による調査を行い,1年4ヵ月が経過した高校生の心理状態の実態を把握するとともに自然災害の諸要因が高校生の心理状態に及ぼす影響を検討した.調査票には,心的外傷後ストレス反応(PTSR)の指標として東日本大震災の被災体験に対する出来事インパクト尺度(IES-R)の他,うつ病評価尺度(QIDS-J),Zung不安自己評価尺度(SAS),およびレジリエンス尺度(CD-RISC10)を使用した.解析にはSPSS20.0Jを用い,各調査票項目に関して,生徒個別の被災体験,在籍する学校や学年などの諸要因が,被災した高校生の心理状態に与える影響を分析した.3校の生徒全体を通して高い抑うつ傾向,不安傾向が認められた.深刻な被災を体験した生徒は,そうでない生徒に比べPTSRが有意に高く,抑うつ,不安傾向には有意な差を認めなかった.3つの高校間で比較すると,使用不能になって仮設校舎で授業を行うA高校が他の2校に比して有意に高い抑うつ傾向と不安傾向,低いレジリエンスが認められた.不安傾向の高さは学年の上昇と正の相関関係が認められた.震災が子どもに与える影響は,年少児ほど大きいといわれるが,高校生年代もまた大きな影響を受けていることが示された.特に学習環境が深刻な被災を受けているほど,抑うつや不安が高まっていた.加えて,学年が上がるとともに不安が高まる傾向が認められ,被災地における人生の進路選択に直面するためである可能性が考察された.(著者抄録)