小田 研(オダ ミガク) |
理学研究院 物理学部門 電子物性物理学分野 |
教授 |
!LaTeX 銅酸化物高温超伝導体Bi_2_Sr_2_CaCu_2_O_8+${\delta}$_(Bi2212)では,CaサイトのDy置換によりエネルギーギャップがd波からずれて大きくなることが報告されている.本研究では,このDy添加について知見を得る目的でBi_2_Sr_2_Ca_1-x_Dy_x_Cu_2_O_8+${\delta}$_単結晶を用いた磁化や熱電能の測定,走査トンネル顕微鏡を用いた実験を行った.
銅酸化物高温超伝導体Bi2212のアンダードープ試料においてSTM/STS実験を行い、この系で問題となっている電荷秩序が観測されるエネルギー領域(電子的な準粒子状態に対応する正の適当なエネルギー領域でのみ観測されるか?)について調べた。また、このエネルギー領域と超伝導ギャップや擬ギャップとの関係についても調べた。講演では、これらの結果について報告する。
典型的な層状硫化物超伝導体の1つであるLaO_1-x_F_x_BiS_2_の超伝導転移温度T_c_はFのドープ量に依存し、x = 0.5(最適ドープ)で最も高くT_c_〜2.7 Kとなる。興味深いことにT_c_は高圧合成あるいは圧力印加で10.6 Kまで大きく上昇する。本研究では常圧下合成において、幅広い組成のLaO_1-x_F_x_BiS_2_、及びBiサイトをSbで部分置換したLaO_1-x_F_x_Bi_1-y_Sb_y_S_2_の単結晶を作製し、超伝導に対するSbの置換効果を調べた。当日はそれらの結果について報告する。
典型的なBiS_2_系超伝導体LnO_1-x_F_x_BiS_2_(Ln=La,Ce,Pr,Nd)はO^2-^をF^-^で置換することにより電子が伝導層にドープされ超伝導が発現し、超伝導転移温度T_c_はF濃度に依存する。LaO_1-x_F_x_BiS_2_(La系)とNdO_1-x_F_x_BiS_2_(Nd系)はxに対するT_c_カーブが異なっており、T_c_のピーク位置にズレが生じている。本研究ではLa系とNd系に注目し、F置換による超伝導や電子系の変化を輸送特性から調べ、La系とNd系における超伝導や電子系の特徴について知見を得ることを目的とした。
銅酸化物超伝導体Bi_2_Sr_2_CuO_6+!LaTeX$\d$_はCu-O面の上下にあるSr-O面にSrとイオン半径が大きく異なる希土類元素Lnを添加すると超伝導転移温度T_c_が大きく抑制されることが報告されている。近年、ARPESやSTM/STSからこのような面間のdisorderの効果が調べられ、面間disorderの増強に伴いアンチノード付近のギャップの発達が顕著になると報告されている。本研究ではBi_2_Sr_2-x_Ln_x_CuO_6+!LaTeX$\d$_(Ln=La, Nd, Eu)において面間disorderが超伝導に及ぶす影響について主にSTM/STSから調べたので報告する。
CaCu_3_(OH)_6_Cl_2_・0.6H_2_OはS = 1/2カゴメ格子反強磁性体の良いモデル物質である。本講演では、19 Tまでの粉末強磁場NMR、5.5 Tまでの単結晶NMRの結果を報告し、CaCu_3_(OH)_6_Cl_2_・0.6H_2_Oの基底状態について議論する。
超伝導は物理学における最も魅力的な現象の一つであり,カマリング・オネスによる発見から今日に至るまで多くの研究者を魅了してきた.なかでも液体窒素温度をはるかに上回る転移温度を示す銅酸化物は,いわゆる高温超伝導体のプロトタイプとして数多くの研究がなされ,今も新たな知見や問題提起が次々と報告されている.
超伝導状態では電子間に有効な引力が作用して電子対(クーパー対)が形成され,複数の電子対が位相をそろえて量子凝縮する.凝縮が起こると,フェルミ面近傍の電子スペクトルには,対演算子の期待値(ギャップ関数)によって特徴づけられるエネルギーギャップが開く.Bardeen–Cooper–Schrieffer (BCS) の理論によって説明される従来型超伝導では,格子振動(フォノン)を介した引力で形成される電子対がフェルミ面上に等方的なs波対称性を持つギャップを形成する.これに対して電子間に強い斥力の働く銅酸化物高温超伝導体のギャップは,有効な引力を獲得するために異方的なギャップ関数を持つと考えられており,フェルミ面上にギャップの節(ノード)を持つd波対称性を示す.また超伝導転移温度(Tc)以上でフェルミ面の一部に擬ギャップと呼ばれるギャップ構造が形成されることが知られており,特に反強磁性絶縁相に近いアンダードープ(UD)試料ではTcよりはるかに高温から観測される.擬ギャップの存在は銅酸化物高温超伝導体の最大の特徴であり,古くから精力的な研究がなされているが,超伝導の前駆現象から超伝導と共存/ 競合する秩序相など様々な解釈があり,結論を見ていない.また物質や測定手法に応じて多様な性質を示すため,ギャップの起源や形成メカニズムを決定するには,多面的かつ系統的な物性観測が必要とされている.
このように多彩な顔を持つ擬ギャップおよび超伝導ギャップと両者の関係性について,従来の実空間や運動量空間の観測手法に加え,超短光パルスを使った時間領域からのアプローチが行われるようになってきた.本稿では物性観測に広く使われる時間分解ポンププローブ分光をベースに,この手法が,これまで観測できなかった高温超伝導体のバルク性質を反映した対称性解析,および秩序形成の相関スケール解析へと拡張可能であることを示す.本稿で扱うポンププローブ分光では,ポンプ光を用いてギャップを形成する電子または正孔(キャリア)を瞬時的に破壊し,高エネルギー状態へと励起する.キャリアのエネルギー緩和に伴って生成される非平衡な準粒子やフォノンは(超伝導・擬ギャップに対応する)ギャップ関数の変化を反映し,ポンプ光に対して遅延時間を持つプローブ光の反射率変化として測定される.励起に使用する光子エネルギーはギャップエネルギーよりもはるかに大きいが,結晶内部への侵入長を大きく取れるため,バルク性質を反映する.拡張されたポンププローブ分光は,それぞれ超伝導ギャップおよび擬ギャップに起因する準粒子応答を一意に決定可能であり,超伝導前駆現象を反映する揺らぎ状態を含め,超伝導ギャップと擬ギャップの個性および両者の関係性をダイナミクスの観点から明らかにする.偏光応答に着目した対称性解析では,擬ギャップの形成温度T *以下で自発的な回転対称性破れが生じることが示される.他方,秩序形成ダイナミクスからは,擬ギャップが長距離相関のない局在状態を反映することが明らかとなる.
我々はS = 1/2カゴメ格子反強磁性体CaCu_3_(OH)_6_Cl_2_・0.6H_2_Oの単結晶育成に成功した。T^*^ = 7 Kに磁気秩序の形成を示唆する磁化、比熱の異常が観測された。また、比熱には温度比例項が存在し、何らかの特異な磁気励起の存在が示唆される。当日は、単結晶を用いた結晶構造解析、磁化、比熱、強磁場磁化測定の結果について報告し、本物質の特異な磁性について議論する予定である。
今回我々は、S = 3/2カゴメ格子反強磁性体Li_2_Cr_3_SbO_8_の粉末試料を用いた磁化、比熱、強磁場磁化過程の測定を行った。T^*^ =4 Kにおいて磁気状態の形成を示唆する磁化、比熱の異常が観測され、強磁場磁化測定からはT^*^以下で1/9磁化プラトーが観測された。本公演では、以上の実験結果を詳細に報告するとともに、その磁性について議論する。