日本学術振興会:科学研究費助成事業
研究期間 : 2001年 -2003年
代表者 : 大鐘 武雄, 山本 学, 西村 寿彦, 小川 恭孝
近年,容量増加を目指して,MIMO(Multiple-input Multiple-output)チャネルの検討が盛んに行われている.中でも,複数の送信アンテナから独立な(あるいは符号化された)ストリームを送信し信号を多重化する手法を空間分割多重:SDM(Space Division Multiplexing)方式と呼ぶ.
これまでのSDM方式の検討の多くは,送信側でMIMOチャネル情報が未知であることを前提とし,各送信アンテナに均一に情報と送信電力を割り当てていた.しかし,送信側でMIMOチャネル情報が既知の場合には,MIMOチャネルの各チャネル応答を要素とする行列を特異値分解することにより得られる固有ベクトルを用いて指向性制御を行い,空間的な直交チャネル(固有チャネル)を形成することができる.
この空間的な直交チャネルを用いた多重化手法(E-SDM:Eigenspace SDM)では,各直交チャネルの品質に応じて,送信ビット数,送信電力を割り当てなければらない.その手法として,本研究でこれまでOFDM方式に適用してきた誤り率最小基準を導入した.その結果,従来のチャネル容量の検討結果と同様に,誤り率特性からもE-SDM方式はSDM方式よりも優れた特性を持ち,特に,受信素子数が小さい場合に大きな改善が得られることがわかった.また,仲上-ライスフェージングのように見通しのある環境においても,E-SDM方式が優れていることがわかった.
しかし,送信側で必要なチャネル情報は,受信信号によるチャネル推定か,フィードバックが必要となる.このときのタイムラグが動的フェージングの場合に問題となり,また,チャネル推定誤差も影響を与えることになる.これらを評価した結果,フェージング変動に対しては一次外挿により特性劣化を抑えることができた.また,チャネル推定誤差の影響も,他の手法と同程度であり,E-SDM方式の優位が変わらないことが明らかとなった.