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造礁性サンゴが生息する熱帯・亜熱帯の海で、水深30 m~150 mは浅場の海と区別してメソフォティックゾーン(中有光層:Mesophotic zone)と呼ばれ、環境変動に抗して浅場サンゴ礁とその生態系を保存するrefugiaとして近年関心を集めている。しかし、そこに生息するサンゴの環境適応に関しては未だ解明されていないことが多い。そのため、サンゴ骨格の年輪の解析からサンゴの成長、代謝、そして生育環境を分析することで、メソフォティックゾーンにおけるサンゴの成長と環境適応の履歴を探ることが本研究の目的である。各水深(4m、15m、40m)においてサンゴ骨格中に記録されたSr/Ca比から予想される水温を復元した。また、サンゴ骨格中に記録された酸素同位体比偏差の季節変動を求めた結果、骨格伸長量が小さい2月と8月に酸素同位体比偏差のピークが見られた。このことから、酸素同位体比偏差は伸長量の季節変動を示す指標となり得ることが示唆された。
低緯度の貧栄養海域における窒素の動態を捉えるため、近年、生物源炭酸塩骨格中の有機物に含まれる窒素同位体比の測定がおこなわれるようになった。造礁サンゴは共生する渦鞭毛藻により、独立栄養型の窒素代謝をおこなっており、溶存無機態窒素の同位体比が骨格中の有機物の窒素同位体比に保存されている。造礁サンゴの年輪はその早い炭酸塩沈着速度から生息期間の海洋環境を季節〜年単位で記録しており,造礁サンゴは貧栄養海域における高時間解像度の窒素動態を捉えるのに適している。本講演では造礁サンゴの窒素同位体比指標の変動がどのように海洋の栄養塩の動態を記録しているかを紹介する。
沿岸に発達するサンゴ礁域は河川を通じ流域より様々な環境負荷を受けることが知られており、これまでに、陸域物質の流入の指標としてハマサンゴ年輪に含まれるマンガン(Mn)や鉄(Fe)が測定されている。これらの元素は塩分や浮遊粒子などの影響を受けやすいにもかかわらず、両元素のサンゴ骨格中での存在状態や,陸域に近い裾礁タイプのサンゴ礁海域においてどのような形態で両元素が存在しているか、といった基本的な情報はあまり研究されていない。本研究では、石垣島サンゴ礁より採取されたハマサンゴの骨格について、クリーニングの有無によるMnとFeの濃度を測定し、骨格内での両元素の存在状態を明らかにした。また、沿岸から外洋側のトランセクトで採取したサンゴ骨格から、MnとFeのサンゴ礁内での空間分布を、50年間の記録を保持する長尺サンゴコアからは両元素の時系列変動と石垣島の土地利用変遷との関係を考察した。