インターフェロン-τ(IFN-τ:195 aa)は反芻動物特異的に分泌される分子であり、妊娠認識及び妊娠の成立に重要な役割を持っている。IFN-τの研究には組換え体が用いられている。しかし、組換え体は作製、入手の難しさや様々な法律による生体投与への使用制限のため、生体研究の妨げとなっている。そこで、本研究では組換え体に変わるIFN-τ構成ペプチドを化学合成し、活性リガンド部位の探索並びに、効果の評価検証を目的とした。IFN-τのアミノ酸配列や立体構造を考慮し、11種のペプチド(長鎖:27-28 aa, 短鎖:7-17 aa)を化学合成した。先ず、ペプチドを培養子宮内膜間質細胞に添加し、インターフェロン刺激遺伝子(ISGs)の遺伝子発現量を測定することでIFN-τ活性の有無を評価した。次に、組換えIFN-τとペプチドを同時に添加することでペプチドとIFN-τの競合を評価した。組換えIFN-τの添加によってISGsの発現量の増加がみられたが、合成ペプチドの添加による増加はみられなかった。また、組換えIFN-τとペプチドの同時添加によるISGsの抑制もみられなかった。そのため、今回合成したペプチドは活性リガンド領域を有していない、もしくは立体構造が変化したため、受容体への結合能を十分に有していないことが示唆された。
[Introduction] Heat shock protein 70 (HSP70) is well known as a heat shock (HS) induced protein that has function as intracellular chaperones for other proteins to help the cells against the stress condition. Although HS is common to induce HSP70 expression to add stress-resistant ability to the cells, HS causes the toxicity to cells and tissues such as increasing reactive oxygen species (ROS). Recently, a standardized extract of Asparagus officinalis stem (EAS), produced from by-product of asparagus, was found to induce HSP70 expression without HS and regulating cellular redox balance in human cells. However, effect of EAS on reproductive cells is unknown. In the present study, we investigated the effect of EAS on HSP70 induction and antioxidant defense system in bovine cumulus cells. [Materials and Methods] Bovine cumulus cells were treated with various concentration of EAS (0.5, 1 and 5 mg/ml) for 6 h at 38.5°C followed by sampling to analyze gene and protein expression of HSP70 as well as gene expressions related to antioxidant system. Besides, intracellular ROS and reduced form of glutathione (GSH) were detected and quantified by using fluorescent dyes. [Results] EAS significantly increased gene expression of HSP70 whereas no effect to HSP27 and 90. Moreover, protein expression of HSP70 was also increased by EAS. Besides, EAS decreased intracellular ROS generation and increased GSH synthesis significantly with enhancement in the gene expressions of antioxidant enzymes such as The Cu,Zn superoxide dismutase, Peroxiredoxin, Glutamate Cysteine Ligase as well as Nuclear factor erythroid 2-related factor 2 transcription factor that contribute to keep intracellular antioxidant status with GSH synthesis and scavieging ROS. These results suggest that EAS has beneficial effect to bovine cumulus cells by improving HSP70 expression and antioxidant defense system under non-heat shock condition.
【目的】反芻動物特異的な妊娠認識物質であるインターフェロン・タウ(IFNT)は着床前後期には母体子宮内膜においてIFN誘導遺伝子群(ISGs)の発現を誘導する。ISGsは妊娠認識や着床に関与するとともに,早期受胎判定としての利活用も期待されている。我々はこれまでに,ISGsの一種であるISG15, MX1, MX2が外子宮口内腔および腟底部壁の粘膜組織においても妊娠特異的な高発現誘導を示すことを明らかにしたが,子宮外組織における他の妊娠応答遺伝子に関する知見はない。そこで子宮外組織における網羅的な遺伝子発現解析をもとにウシ子宮外組織における妊娠応答遺伝子の探索と妊娠検出を目的とした。【方法】人工授精(AI)実施後,18日後のホルスタイン種乳用牛から採取した外子宮口粘膜(CM)における発現解析をRNA-seqにより行い,候補遺伝子としてinterferon-induced protein with tetratricopeptide repeats 1(IFIT1)を選出した。AI後14,18,24日目に同組織の採取を行い,妊娠の成否はAI後30日目と45日目の妊娠診断で判断した。またIFNT誘導性を検証するために,食肉公社から採取した非妊娠ウシCM組織を採取・細切後,組み換えウシIFNTを添加して24時間培養しIFIT1発現を解析した。【結果】AI後18日目に採取したCMにおいては,IFIT1が非妊娠サンプルと比較して妊娠サンプルで発現量の増加傾向がみられた。さらに14,18,24日目におけるIFIT1の遺伝子発現の経時的変化を調べたところ,IFNT産生ピークである18日目を頂点とした挙動を示した。また,IFIT1のIFNT誘導性については,IFNT添加CMで発現量が増加する傾向があった。これらの結果から妊娠初期のCMにおけるIFIT1発現にはIFNTの関与ならびに早期妊娠応答の新たな指標の可能性が示唆された。
【目的】カテプシンB(CTSB)はリソソームプロテアーゼであり,細胞内消化や細胞死に関与する。我々は,これまでにウシ卵子・胚の品質の程度や暑熱曝露の有無によるCTSBの動態変化を明らかにし,卵子・胚の品質や障害指標としての利用可能性を提示した。CTSBを指標としたガラス化保存による障害評価はウシ卵子やヒツジ卵子で報告されているが,ウシ胚盤胞では未報告である。ウシ胚盤胞では,ガラス化保存を含む凍結保存により,胚内側の内部細胞塊(ICM)と比べて,胚外側の栄養外胚葉(TE)における高頻度のDNA損傷が報告されていることから,ガラス化保存ウシ胚盤胞のTEにおける障害評価が重要であると考えられる。本研究ではウシ胚盤胞のTEにおいて,ガラス化保存による障害とCTSBの関連性解明を目的とした。【方法】体外受精・発生させたウシ胚盤胞をガラス化保存し,加温・回復培養に供した後の生存胚を実験に用いた。まず,Magic Red®によるCTSB活性検出とTUNEL染色をガラス化保存胚盤胞全体で行った。その後,定量的な解析を行うため,ブレードを用いた顕微操作により胚盤胞をICMとTEに切断分離し,単離したTEにおけるCTSB活性の測定およびqPCRによるCTSB遺伝子の発現解析を行った。また,CTSBとアポトーシスとの関連が報告されていることから,アポトーシス関連遺伝子も同時に発現解析を行った。【結果】ガラス化によってウシ胚盤胞全体のDNA損傷レベルが上昇した。また,無処理対照胚と比較して,ガラス化保存胚盤胞のTEにおけるCTSB活性の上昇が観察され,この結果は単離したTE単独においても同様であった。さらに,ガラス化保存後単離TEにおいて,CTSB遺伝子とアポトーシス関連遺伝子(BAX, CASPASE-9, CASPASE-3)の発現上昇が確認された。これらの結果から,ガラス化保存によりウシ胚盤胞のTEにおけるCTSBの遺伝子発現および細胞内活性が上昇し,ミトコンドリアを介したアポトーシスが亢進されたことが示唆された。
【目的】夏季の暑熱ストレスに伴い引き起こされる酸化ストレスは,人工授精受胎率低下など,家畜の繁殖性に悪影響を及ぼすことが知られている。これまでに,ウシの卵子や卵巣の機能,胚発生などに異常をきたすことが報告されているが,母体子宮に関しては暑熱ストレスにより酸化ストレスが引き起こされるかどうかは不明である。一方子宮は,妊娠成立過程において着床の場となる重要な組織であり,正常な受胎の前提条件として,子宮が健全であることが必須である。本研究では,子宮においても暑熱ストレスに伴い酸化ストレスが引き起こされるかを検証した。【方法】と場由来のウシ子宮組織から子宮内膜上皮細胞を単離,培養した。単離した上皮細胞を牛の平常時の体温である38.5℃および暑熱時の体温である40.5℃の暑熱条件下で12時間培養した後,CellROX® Green Reagentを用いて,マイクロプレートリーダーでの蛍光強度測定および蛍光顕微鏡により活性酸素種(ROS)を検出した。また,同様に培養した細胞からRNA抽出,cDNA合成を行い,リアルタイムPCRにより,酸化ストレスの指標である抗酸化酵素の遺伝子; SOD(スーパーオキシドジスムターゼ),GPX(グルタチオンペルオキシダーゼ),CAT(カタラーゼ)の発現量解析を行った。SODについては,CuZnSODおよびMnSODの2種類の遺伝子を解析した。【結果と考察】蛍光強度には暑熱負荷による影響はなかった。蛍光シグナルの観察では細胞の核と細胞質の両方において強い蛍光シグナルがみとめられた。抗酸化酵素の遺伝子の発現量は,MnSOD,GPX,CAT遺伝子の発現量に有意な影響はみられなかったが,CuZnSOD遺伝子の発現量は暑熱負荷により有意に増加した。これらの結果から,12時間の暑熱負荷培養により,ウシ子宮内膜上皮細胞で酸化ストレスが引き起こされたことが示唆された。
【目的】性選別精液とは,X染色体を持つ精子(雌)とY染色体を持つ精子(雄)のDNA含量の違いから,特定染色体を持つ精子を高率に選別したものである。酪農において,X染色体性選別精液の利用による計画的雌畜生産は,経営面および育種改良面においてメリットが大きい。しかし,一般に,性選別精液の受胎率は低く,通常精液の75から80%といわれている。性選別精液の受胎率向上のためには,通常精液と性選別精液の性質の違いを把握した適切な使用が求められる。受胎率を含む繁殖形質は遺伝率が低く,環境要因による影響が大きいことから,環境要因から受ける影響の理解が極めて重要になる。よって本研究では,性選別精液の環境要因側の特性を理解すべく,道内の酪農家で実施された過去4年間の人工授精(AI)成績を含むフィールドデータを分析した。【方法】北海道酪農検定検査協会で集積された道内ホルスタイン種雌牛の個体繁殖成績を使用した。分析対象は,2012から2015年までの国産乳牛精液による未経産牛69,857頭分の初回授精記録とした。分析環境要因は,授精年,授精月,および授精月齢とした。【結果と考察】通常精液,性選別精液ともに6から9月にかけて受胎率が低下していた。各精液種の受胎率低下をより詳細に分析するため,各月の受胎率と全月平均受胎率の差を分析すると,7および8月では,性選別精液のみで有意な低下がみられた。一般に,受胎の成否には,精子と卵母細胞の受精可能時間が重複するタイミングでのAIが重要となる。しかし,母体は暑熱ストレスを受けると発情の微弱化や乱れが生じ,AI適期の把握が困難となる。夏期におけるAI適期の齟齬は,受胎率の低下を引き起こすことが知られているが,性選別精液は通常精液に比べて精子生存性が低く,受胎不成立の頻度が高まったと推測された。以上より,性選別精液を用いた7および8月のAI受胎率は,通常精液に比べ,より顕著に低下することが判明した。