中山 翔太(ナカヤマ シヨウタ) |
獣医学研究院 獣医学部門 環境獣医科学分野 |
准教授 |
ネオニコチノイド(NNs)は、現在世界で最も使用されている殺虫剤の一つである。特に日本では、果物や野菜における残留基準値が諸外国と比べ高く設定され、かつ複数種が使用されるため、全体的にNNsの摂取量が多いと考えられる。
そこで本研究では、日本人におけるNNs曝露実態を明らかにする事を目的に、新生児、幼児を含む延べ数百人から尿を採取し、尿中に含まれる7種のNNs(アセタミプリド、イミダクロプリド、チアメトキサム、チアクロプリド、ニテンピラム、クロチアニジン、ジノテフラン)及び代謝物(N-デスメチルアセタミプリド)をLC/MS/MSで定量した。更に、得られた尿中データより、推定摂取量を算出し、一日摂取許容量(ADI)と比較した。
分析の結果、日本人の尿から何らかのNNsが検出され、特に、N-デスメチルアセタミプリド(90%)、クロチアニジン(50%)、ジノテフラン(50%)の検出頻度が高かった。一方、尿中濃度から推定した各NNs摂取量は、10~50 µg/dayであり、ADIに比べアセタミプリドで最大1%程度、他のNNsは1%未満であった。更に本研究では、生後48時間以内の新生児の尿も分析した。その尿中濃度は‹LOD~0.7 ng/mLと極めて低かったが、分析した57サンプルのうち14サンプルから検出された。
本研究の結果、多くの日本人は胎児を含めNNsの曝露を受けていることが明らかにされた。NNsの慢性低濃度曝露の健康影響については、胎児移行のメカニズムや神経発達を含む毒性に不明な点が多いが、最近の報告においてNNsは現在のNOAELの1/10程度の曝露でも実験動物に対し不安などの情動認知行動に影響を与える事が示されている。
NNsの毒性について、再度リスク評価を実施した上で、継続的なモニタリングを行う必要がある。
近年、ペット動物に対するポリ塩化ビフェニル(PCBs)および水酸化代謝物(OH-PCBs)の曝露による甲状腺ホルモン(THs)の恒常性への影響が注目されている。本研究ではPCBs曝露がペット動物のTHs恒常性に及ぼす影響を明らかにするため、イヌ・ネコのPCBs投与試験を実施し、PCBs曝露に伴う血清中THs濃度の変化を解析した。
PCBs投与後から5日間、継続的に血清を採取し、THs濃度の変化を解析した結果、ネコ血清中THs濃度は、総THs、遊離型THsともに対照群と投与群の間に有意な変化は認められなかった。一方、イヌ血清中総THs濃度は投与群において、総L-サイロキシン(T4)と総3,5,3'-トリヨード-L-サイロニン(T3)の減少傾向がみられ、総PCBs濃度は総T4、総T3濃度と有意な負の相関を示した(p < 0.01)。一方、遊離型T4、遊離型T3濃度では、対照群と投与群の間に経時的な変化は認められなかったが、曝露後48、96時間目で有意に増加した(p < 0.05)。加えて、遊離型T4濃度は総OH-PCBs濃度と正の相関を示し(p < 0.01)、異性体別ではT4様構造の高塩素化OH-PCBsで同様の傾向が認められた。上記の結果および先行研究から、PCBs曝露によるイヌ血清中THsへの影響を推察した。PCBsがT4様構造のOH-PCBsへ代謝されてTHs輸送タンパクに競合結合し、結合できない遊離型T4が血中に増加することで、THsの臓器・組織への取り込み量が増加したと予測される。その結果、イヌ肝臓中のTHs濃度は増加し、PCBs曝露により肝臓中のAhR・CARが過剰に誘導されることで、UGTおよびSULTが誘導され、THsの抱合化を促進することで体外排泄量が増加し、血清中総T4、T3が減少したものと推察された。