成層期の津軽海峡西口付近における合成開口レーダ(SAR)の人工衛星海面画像には,2~3 本のストリーク帯(同一水塊内の海面収束帯)を伴う内部波群が映し出され,その波長は数100 mのオーダであった。このような内部波群のほとんどは,浅いシル(海堆)地形付近で観測された。シル上に捕捉されたようにみえる内部波群の経時変化を捉えることを目的に,2017年の夏季,高周波計量魚群探知機を用いた25時間連続観測を実施した。得られた音響画像は,海峡通過流強化時期のシル下流側において,全振幅が150 mを超える内部波群が遷移的に発達する様子を示した。内部波群は連なった2~3 本のストリーク帯で構成され,そこでは強い沈降流で生じたと思われる非常に乱れた海面状態を呈していた。シル上で発達する内部波の力学過程を調べるために,水平移流の影響や有限振幅波が表現できる非線形項を含む非静水圧モデルを用いた。モデルの密度成層及び強制力である順圧海峡通過流の経時変化は,本観測に近い状況を設定した。モデル再現の結果,フルード数が臨界点となるシル下流側付近では,シル東端斜面上で励起された上流伝播する内部波が同海域に停滞して効率的に重なり,内部波振幅の顕著な増幅を引き起こしていることが推測された。ただし,この力学過程では大振幅まで波が成長しても内部ソリトン波の構造を示さず,波の強い分散性よる散乱現象がむしろ支配的と思われる。
初夏の噴火湾で観測される最も顕著な物理現象は,表層の時計回り水平循環流システムである。本研究では典型的な成層期を想定し,(1)河川供給に伴う淡水化,(2)津軽Gyre 水の密度流的流入,(3)海面熱供給の3 つを強制力とした数値モデル実験を行い,この循環流の形成過程を調べた。その結果,この循環流の励起に寄与する基本的な物理的要因は,海面加熱強制により生じる「地形性貯熱効果」であることがわかった。加熱強制の初期段階では,浅い沿岸域と深い湾中央部の間に生じる水温差で駆動される鉛直循環流(重力循環流)により,反時計回りの弱い表層地衡流が形成される。継続的な加熱強制にもかかわらず,2 ~3 カ月経過した頃から,鉛直循環流は陸棚斜面上で冷たく重い海水の湧昇を次第に強化させる。沿岸近傍の斜面底層付近において,冷水湧昇による冷却量が下向き熱拡散による加熱量よりも大きくなったとき,沿岸表層水は沖合表層水よりも相対的に冷たくなり始める。その結果,内部境界面変位が岸側に向かって浅くなり,時計回りの表層地衡流への変化が生じる。この変化に応答して,北部湾奥の表層付近から時計回り水平循環流が形成され,一方で,初期に形成された反時計回り流は深い領域へと移動する。
2016 年夏季に宗谷暖流沖合域で実施したCTD ならびにXBT とADCP を用いた25 時間連続往復断面観測で得られた詳細な流れ場と水温場の時間変化データの解析によって,冷水帯を伴った日周期渦流が宗谷暖流沖合を横切る様子を初めて捉えた。観測された冷水帯下部は,ほぼ均一な高塩分水で占められており,その起源は日本海中層水であることが示された。数値モデル結果を使用したトレーサー実験によって,日本海中層水は,岸向きの移流と湧昇により宗谷海峡へ供給された後,卓越した日周潮流により励起された反時計回りの孤立渦流に取り込まれ,冷水帯下部の海水の大部分を構成するとともに,宗谷暖流沖合水となって移流されることが示唆された。