セロビオース2-エピメラーゼ(CE)は,β-(1→4)-二糖の還元末端Glc残基をMan残基にエピメリ化する.β-マンナンの代謝においてManβ-4ManからManβ-4Glcを生成し,加リン酸分解へと導くとされる.CEの利用によるラクトースからのエピラクトースの生産技術が整備され,エピラクトースにプレバイオティクス効果など有益な生理機能が見出された.CEの構造は,触媒部位も含めてアシルグルコサミン2-エピメラーゼ(AGE)やマンノースイソメラーゼ(MI)などと類似し,AGEスーパーファミリーを形成する.(α/α)6バレルからなる触媒ドメインの8番目と12番目のα-ヘリックス上のHisが一般酸・塩基触媒として基質の2-Hの授受に働くcis-エンジオレート中間体を経由したエピメリ化機構が提唱された.一方,MIなどイソメラーゼでは,8番目のα-ヘリックス上のHisが一般酸・塩基触媒として基質の1-Cと2-Cの間でのプロトンの分子内転移を行う機構が考えられた.AGEスーパーファミリーからManをエピメリ化するマンノース2-エピメラーゼが発見され,GlcからのManの生産への応用が期待された.
【目 的】
植物は大地に根を張り移動が困難である事から、自己の被る様々な環境要因,ストレスに適応して生活環を終結させなくてはならない。よって、植物は独自の環境応答機構を有している。この応答機構を司る生理活性物質として植物ホルモンと呼称される一群の化合物が知られ、多くの研究がなされてきた。我々の研究室では長年、植物ホルモンの一種であるジャスモン酸(JA)について、鋭意研究を行っている。JA類は植物の傷害応答シグナル物質として必須であり、他の興味ある生理活性としてバレイショ塊茎の誘導活性、植物の就眠運動における就眠誘導、花粉管伸長促進などが知られている。近年、JA類の生理活性の制御の観点から、配糖化、チトクロームP450による酸化などに注目した報告がある。
我々はJA類の配糖体化に関して研究を進め、イネに含まれるOsSGTを12-hydroxyJA(12-OHJA)配糖化酵素として報告した[1]。OsSGT は糖供与体としてUDP-Glcを用いるが、12-OHJAよりサリチル酸(SA)に対してより高い糖転位活性を示した。しかしながら、本酵素の探索過程において、SAに対してほとんど配糖化活性を示さず、12-OHJAに特異性の高いUDP-Glc非依存性の配糖化酵素の存在も明らかとした。現在のところ、UDP-Glc非依存性の植物2次代謝産物を標的とした配糖化酵素に関しては松葉らの報告[2]があるのみであり、植物ホルモンの配糖体化に関してUDP-Glc非依存性の糖転位酵素が関与しているとの報告は一切無い。
上記の興味ある発見の詳細を明らかとすべく我々は、1)イネカルスに含まれるUDP-Glc非依存性の配糖化酵素の精製、2)イネカルスに含まれる本配糖化酵素の糖供与体の単離精製、構造決定,3)本配糖化酵素の諸性質の究明を進めたところ、本配糖化酵素はb−glucosydase, OsBGlu1 (accession number: AK100165)であると突き止め、イネにおいてサリチル酸グルコシド(SAG)が糖供与体として働くことを明らかとした(図1)。本酵素の生理学的意義は水酸化JA類を配糖化しJAの活性調節に寄与していると示唆できた事から、本成果について報告する。
【研究方法および結果】
1. UDP-Glc非依存性配糖化酵素の発見
イネカルス粗酵素溶液にUDP-Glcを糖供与体としない12-OHJA 選択的な配糖化酵素が存在する事を、市販の糖供与体を用い、以下の実験より発見した。糖転位反応液としてイネカルスより抽出した粗酵素溶液、糖受容体としてJA水酸化体の一種である12-OHJA、糖供与体として市販のGlc 1-phosphate, TDP-Glc, octyl-Glc, UDP-Glcを用いて実験を行った。その結果、octyl-Glc はUDP-Glcよりも12-OHJAにより選択的に糖を供与し、SAはほとんど配糖化されなかった。
2. イネ由来のUDP-Glc非依存性配糖化酵素の同定
12-OHJA選択的糖転位活性を指標に、イネカルス粗酵素溶液に含まれる糖転位酵素の同定を試みた。糖供与体としてoctyl-Glc、糖受容体として12-OHJAを用い、種々の精製操作の後、得られた精製タンパク質はペプチドマスフィンガープ
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