日本学術振興会:科学研究費助成事業 基盤研究(C)
研究期間 : 2021年04月 -2024年03月
代表者 : 蓑島 栄紀
「アイヌ史の時代区分」に関する研究史的検討について、着実な進展があった。研究代表者の蓑島は、北海道考古学において重要な概念となっている「アイヌ文化期」という用語の、登場前後および展開過程にかけての基本文献を収集し、学史研究の視点から分析して、「アイヌ文化期」という概念が、どのような背景のもとに、どのような文脈でもちいられ、どのような学界・社会への影響を及ぼしたかについて考察した。
上記の研究によって、およそ以下のことが明らかとなった。今日、一般的な通念とみなされがちな、おもに土器の終焉以後を指す「アイヌ文化期」という概念は、河野広道に代表される戦前の北海道史研究では使われていない。この概念は、戦後、とくに1950年代に使用されはじめ、普及した。1950年代に、今日の北海道考古学の時代区分の基盤を構築した大場利夫は、「アイヌ文化期」とそれ以前の歴史の断絶を強調せず、むしろ両者の連続面を重視している。ただし、当時の研究は、アイヌ文化の「真髄」「本質」を「先史時代の残存」とし、それ以後のアイヌ民族の歴史を正当に位置づけないという重大な問題性を含んでいる。
こうした学史的検討を踏まえたうえで、今日の「アイヌ史」に必要とされる課題も明らかとなった。すなわち現代においては、アイヌ民族の存在を過去に固着するかのような、アイヌ文化の本質を「先史時代の残存」とみなす歴史観を払拭したうえで、アイヌ史における過去から現在への連続面を改めて正当に位置づける作業が必要である。
また、研究分担者の谷本は、時代区分論の視点から、北日本の「中・近世」に関して検討した。鈴木は、ガラス玉のような「モノ」の受容の変遷から、アイヌ史の時代区分に迫った。
当該研究の成果を、新しい『北海道史』の編さんや、国立アイヌ民族博物館の展示シナリオ等の実践にどのように結びつけていくかについても、有意義な意見交換ができた。