日本学術振興会:科学研究費助成事業
研究期間 : 2004年 -2007年
代表者 : 岩崎 克則, 梶原 健司, 神本 丈, 齋藤 政彦, 稲場 道明, 原岡 喜重, 津田 照久, 高野 恭一, 吉田 正章
パンルヴェ方程式,特にパンルヴェ第VI方程式とその一般化であるガルニエ系に対して,代数幾何学と力学系理論の立場からさまざまの研究成果が得られた.それらは,主として代数幾何学に基づくパンルヴェ力学系の法則の確立と,主として力学系理論に基づくパンルヴェ力学系の大域的現象の解明からなる.
より具体的には,法則面では,モデュライ理論に基づくパンルヴェ力学系の相空間の建設,リーマン・ヒルベルト対応の確立,ベックルント変換のリーマン・ヒルベルト対応による特徴づけ,リッカチ解と特異点理論との密接な関係の解明,ハミルトン構造の自然な導入などからなる.
現象面では,パンルヴェカ学系の非線形モノドロミーがほとんどすべてのループに沿ってカオス的であることを示したことが著しい.すなわち,位相的エントロピーの正値性の証明,鞍型双曲的最大エントロピー確率不変測度の構成,エントロピーの計算アルゴリズムの確立,周期解の個数の指数増大性の証明などである.
これらの結果は,従来,可積分系理論的にのみ研究されることが普通であったパンルヴェ方程式が実はカオス系であったことを示したものであり,今後の研究動向に意識改革を引き起こすものと期待している.
以上の研究成果は,この補助金を有効に利用した共同研究,研究集会への出席,研究交流の賜物である.また,この補助金を利用して,上記の研究成果を国内外のさまざまの研究集会,学会等で発表公表した.
本研究により,パンルヴェ方程式の幾何学を展開し,それによってパンルヴェ力学系の大域的な現象の解明を推し進めるという当初の目的について大きな進展を得た.この成果を基盤として,今後の研究の更なる発展が期待される.