佐藤知己著『アイヌ語文法の基礎』に対する書評へのお答えを下記「アイヌ語学の諸問題」に述べてあります。
アイヌ語に最初に興味を持ったのは小学二年の時です。百科事典で「鮭という単語はアイヌ語に由来する」という記事(田村すず子先生執筆)を読んだことがきっかけです(宿題として出したら、白髪眉雪の上野武雄先生という校長先生が「君はなかなか、おもしろいことに興味を持つんだねえ。」とホメてくれました。その後、学校の先生から褒められた記憶は、あんまり、ないですね)。以下は最近の研究の簡単な紹介です。コピーの入手その他、ご興味のある方はご一報下さい。
「アイヌ語学の諸問題–近年の議論と関連して」『北海道大学文学研究院紀要』165:1-29 2021年12月(主に佐藤のこれまでの研究について提起された疑義に対する反論、または補足説明を述べたもの。アイヌ語の深い理解が必ずしも希求されていないアイヌ語研究の現状と、なぜそのようなことが起きるのかについて、具体的な例を挙げて述べる。)
「名詞所属形を用いたアイヌ語の所有構造について」『津曲敏郎先生古稀記念集』201-213 2021年3月(日本語では困難な「シャクシャインiが彼iの手を引っ込めた」のような同一文中における代名詞指示がアイヌ語ではなぜ可能であるのかという問題、および所属形の所有者の定性の問題を、主要部表示型言語としてのアイヌ語の構造の面から論じたもの。)。
「アイヌ語千歳方言の位置名詞orの用法」『北方言語研究 』(11) 81 - 98 2021年3月(アイヌ語の位置名詞がなぜ普通名詞と異なり目的格人称変化をするのか、また、人称変化しているにもかかわらず語幹が概念形のままで所属形にならない場合があるのはなぜか、という問題を抱合、擬似抱合と関連付けて説明したもの。これまでのアイヌ語像を再検討する論考。)
「アイヌ語千歳方言におけるわたり音化とわたり音挿入について」『北海道大学文学研究院紀要』 (163) 23 - 43 2021年3月(アイヌ語には母音連続を避けるための方略が多数存在し、派生や合成における音韻的規則は複雑を極める。これらを合理的に説明するためには1)アイヌ語学における従来の「音素」という概念を根本から見直す必要がある、2) アクセントの存在や位置を指定するだけでは現象の根本的理解には不十分で、韻脚(foot)という概念の導入が不可欠であること、の二点を主に主張した論考。)
「アイヌ語のおもしろさ」『時空旅人 アイヌと北の縄文』64-67. 東京: 三栄. 2020年5月(アイヌ語の未知の特徴を論理学の観点から明らかにし、一般向けに紹介したもの。)
「アイヌ語における文法的カテゴリーの転換について : 語と句、動詞と名詞の相互関係をめぐって」『北方言語研究 』(10) 219 - 230 2020年3月(合成名詞と抱合、抱合と転成の相互関係を通してアイヌ語の文法的特徴を述べたもの。)
「アイヌ語古文献における仮名の用法 」『北海道大学文学研究科紀要』 (154) 73 - 99 2018年3月(古いアイヌ語の記録に表れる仮名表記の特徴を明らかにし、アイヌ語古文献の年代推定において有力な手がかりになることを論じたもの。)
A Classification of the Types of Noun Incorporation in Ainu and its Implication to Morphosyntactic Typology
Crosslinguistics and Linguistic Crossings in Northeast Asia 83 - 94 2016(アイヌ語の重要な文法現象として抱合が知られているが、抱合の可能性が尽きた後、さらに擬似抱合という別のカテゴリーの現象が現れることを論じ、同様な現象が他の言語にも存在する可能性を述べたもの。)