河本 充司(カワモト アツシ) |
理学研究院 物理学部門 電子物性物理学分野 |
教授 |
有機伝導体!LaTeX$\kappa$-(ET)_2_Cu[N(CN)_2_]X (X=Br,Cl)は盛んに研究されており、同一の温度-圧力相図で理解される。X=Cl,Br塩と同形であるX=I塩もイオン半径の類推から金属相に位置すると考えられるが、電気抵抗測定からは常圧下で絶縁体、圧力下で超伝導体であることがわかっている。X=I塩の物性が共通の温度-圧力相図で理解できないことを明らかにするために常圧及び圧力下における^13^C NMR測定を行った。
表題物質は特殊な超伝導状態であるFFLO状態を示す候補物質のひとつである。FFLO状態は高い磁場下でゼーマン分裂によるエネルギーの損をクーパー対が重心運動量を持つことで抑えることで発現する超伝導である。本研究では表題物質の高磁場下熱容量測定からFFLO状態の熱力学的な性質を議論する予定である。
!LaTeX$\lambda$-(BETS)_2_GaCl_4_はFFLO超伝導相やd波の超伝導対称性が報告されている非従来型の超伝導体である。超伝導メカニズムを解明するためには、まず超伝導転移温度以上における常伝導相の電子状態を調べることが必要である。しかしこれまでのところ、それを明らかにする適切なプローブがなかった。本研究では、BETS分子の中心の炭素を^13^Cに置換した試料を作製し、^13^C NMR測定を行った。その結果、およそ90K以上に反強磁性ゆらぎがあることを発見した。
超高圧下で超伝導を示す\beta^{\prime}-(BEDT-TTF)_2_ICl_2_の超伝導モデル物質として\beta-(BEDT-TTF)_2_I_3_がある。\beta-(BEDT-TTF)_2_I_3_はその圧力状態や冷却方法により二つの超伝導転移温度を持つことが知られている有機超伝導物質である。その超伝導の起源を探るため、圧力下でのNMR測定を行うことで、スピン-格子緩和時間T_1_やKight shift、電子相関の情報を得る一つの指標となるKorringa因子等の圧力依存性を調べ、超伝導との関連性が指摘されている磁気的な揺らぎについて議論した。
有機超伝導体b''-(BEDT-TTF)_4_[(H_3_O)Fe(C_2_O_4_)_3_]C6H5Brは磁場中でp電子にかかる外部磁場を局在Feスピンと遍歴p電子の間の交換相互作用がちょうど打ち消し、有効的にゼロ磁場を作り出すことで発現する磁場誘起超伝導の可能性が議論されている。今回スピン相関を直接的に観測出来るESR分光法によりpスピンとFeスピンの間の相互作用を調べたので、その結果を報告する。
有機超伝導体の一つλ-(BETS)_2_GaCl_4_はDimer Mott系の塩であると考えられ、そのため反強磁性スピンゆらぎを起源としたd波超伝導が発現している可能性が考えられている。そこで熱容量測定から超伝導状態の準粒子の低エネルギー励起構造からギャップ構造の研究を行い、d波超伝導状態であることを決定した。
擬一次元導体である(TMTTF)_2_PF_6_は、2.0GPa以上の圧力下で不整合スピン密度波を基底状態にも持つ。我々はこれまで(TMTTF)_2_PF_6_において、しきい電場を大きく上まわる電場を印可した際に、電流密度の上昇に対し電場が減少していく負性微分抵抗を観測している。今回、この負性微分抵抗の起源を解明するために、(TMTTF)_2_PF_6_でさらに高電場領域でのI-V特性を調べ、負性微分抵抗とSDWスライディングとの関係について報告・議論する。
電荷密度波相近傍に超伝導が見つかっている物質として\alpha-(BEDT-TF)_2_MHg(SCN)_4_ (M=K,Rb,NH_4_)がある。Rb塩はT_CDW_=12 Kで電荷密度波転移し、NH_4_塩はT_C_=1.5 Kで超伝導転移する。二つの塩の関係は一軸圧法で調べられており、c軸圧により超伝導が誘起されることが示唆されている。超伝導の誘起に伴う電子状態の変化を観測するために、Rb塩を対象にc軸圧下NMR測定を行った。
!LaTeX${\lambda}$-(BETS)_2_FeCl_4_において!LaTeX${\pi}$電子とd電子の相互作用による反強磁性秩序形成の可能性が示唆され、この秩序の起源については議論がなされている。この度我々は新たな!LaTeX${\pi -d}$系物質として、!LaTeX${\lambda^{\prime } }$-(BEDT-STF)_2_FeBr_4_の結晶を作成し、その物性を測定した。講演ではこの物質の磁気的性質と高圧力下における電気抵抗の振る舞い、!LaTeX${\lambda^{\prime } }$-(BEDT-STF)_2_FeBr_4_の反強磁性秩序の起源について示す。
CaCu_3_(OH)_6_Cl_2_・0.6H_2_OはS = 1/2カゴメ格子反強磁性体の良いモデル物質である。本講演では、19 Tまでの粉末強磁場NMR、5.5 Tまでの単結晶NMRの結果を報告し、CaCu_3_(OH)_6_Cl_2_・0.6H_2_Oの基底状態について議論する。
有機超伝導体!LaTeX$\kappa$-(BEDT-TTF)_2_Xではアニオン層Xに化学置換を施すことで電子相関を制御可能である。本研究では電子相関の異なるX=Cu[N(CN)_2_]Br及びCu(NCS)_2_に対しエネルギーギャップの検出が可能な偏光時間分解分光を実施した。その結果、両試料において擬ギャップ応答と考えられる空間対称性破れを検出することに成功した。さらに超伝導応答が、電子相関がより大きいX=Cu[N(CN)_2_]Brの試料では転移温度以上においても検出され、超伝導発現における電子相関の重要性を示唆する結果が得られた。