ゾウにおける結核は,ヒト型結核の病原体であるMycobacterium tuberculosisによって主に引き起こされる再興感染症の1つである。ゾウからヒトへの伝播が,いくつかの動物園で報告されており,公衆衛生上大きな問題となっている。ゾウの鼻腔洗浄によって得られる呼吸器系サンプルの培養が,ゾウ結核診断の最も信頼できる手法である。しかしながら,この手法の適用はあまり現実的でない。世界の動物園やゾウ飼育施設では,ゾウの結核診断法として抗体検査が開発され,広く使われている。ゾウと象使いでの定期的な結核スクリーニング検査が実施されるべきである。結核陽性の象使いはすぐに隔離され,抗結核薬が処方されるべきである。スクリーニング検査,隔離および治療はゾウとヒトと間での結核伝播を防ぐのに有効であり,飼育ゾウ-野生ゾウ間の結核感染の広がりを抑えることが絶滅危惧種である野生ゾウの保全に貢献することにつながる。
1995年に設立した日本野生動物医学会は20周年を迎え,毎年の大会開催や学会誌およびニュースレターの発行に加え,認定専門医協会の設立,スチューデントセミナーコースの開催,感染症専門家の現地派遣,アジア野生動物医学会のサポート,各種ガイドラインの制定など,活発な活動を続けている。この20年間に野生動物に関連する出来事は数多くみられ,例えば環境ホルモン(内分泌かく乱化学物質)の影響,ワシ類の鉛中毒の発生,ツキノワグマの人里への大量出没,トキやコウノトリの野生復帰,高病原性鳥インフルエンザの発生などは社会の関心も高かった。これらの問題に対応する学問として保全医学が台頭し,今やOne Healthと同じコンセプトとして重要な学際的分野として注目を集めている。今後もこの分野の重要性はますます高まるものと予想され,日本野生動物医学会の発展とともに他関連組織との連携を深めながら生物多様性の保全に貢献していくことが社会から求められている。