[Introduction] Heat shock protein 70 (HSP70) is well known as a heat shock (HS) induced protein that has function as intracellular chaperones for other proteins to help the cells against the stress condition. Although HS is common to induce HSP70 expression to add stress-resistant ability to the cells, HS causes the toxicity to cells and tissues such as increasing reactive oxygen species (ROS). Recently, a standardized extract of Asparagus officinalis stem (EAS), produced from by-product of asparagus, was found to induce HSP70 expression without HS and regulating cellular redox balance in human cells. However, effect of EAS on reproductive cells is unknown. In the present study, we investigated the effect of EAS on HSP70 induction and antioxidant defense system in bovine cumulus cells. [Materials and Methods] Bovine cumulus cells were treated with various concentration of EAS (0.5, 1 and 5 mg/ml) for 6 h at 38.5°C followed by sampling to analyze gene and protein expression of HSP70 as well as gene expressions related to antioxidant system. Besides, intracellular ROS and reduced form of glutathione (GSH) were detected and quantified by using fluorescent dyes. [Results] EAS significantly increased gene expression of HSP70 whereas no effect to HSP27 and 90. Moreover, protein expression of HSP70 was also increased by EAS. Besides, EAS decreased intracellular ROS generation and increased GSH synthesis significantly with enhancement in the gene expressions of antioxidant enzymes such as The Cu,Zn superoxide dismutase, Peroxiredoxin, Glutamate Cysteine Ligase as well as Nuclear factor erythroid 2-related factor 2 transcription factor that contribute to keep intracellular antioxidant status with GSH synthesis and scavieging ROS. These results suggest that EAS has beneficial effect to bovine cumulus cells by improving HSP70 expression and antioxidant defense system under non-heat shock condition.
【目的】夏季の暑熱ストレスは,家畜の繁殖性に悪影響を及ぼす。暑熱ストレスにより,ウシの卵巣機能,卵子や胚発生などに異常をきたし,人工授精後の受胎率は低下することが報告されている。また近年,北海道という比較的冷涼な地域においても夏季の受胎率低下が報告されており,温暖化の影響は深刻化していることが懸念される。一方,母体子宮組織は胚受容に必須であるが,暑熱ストレスが母体子宮組織に及ぼす影響は知見が少ない。本研究では,ウシ子宮内膜組織を夏季および冬季にわけて遺伝子発現の差異を検証した。【方法】と場由来のウシ子宮から子宮内膜組織を採取した。採取した組織からRNA抽出,cDNA合成を行い,リアルタイムPCRにより,熱ショックタンパク質,抗酸化酵素,インターフェロン誘導性遺伝子および炎症性サイトカインの発現量解析を行った。【結果】熱ショックタンパク質HSP27, 60, 90および抗酸化酵素であるカタラーゼおよびCuZnSODは,夏季に採取した子宮内膜組織において,冬季に採取したものと比べ発現が有意に低かった。炎症性サイトカインであるIL1Bの発現量は夏季に採取した子宮内膜組織において,冬季に採取したものと比べ有意に高く,TNFA発現は増加傾向であった。インターフェロン誘導性遺伝子の発現量に変化はみとめられなかった。これらの結果から,長時間の暑熱負荷により,ウシ子宮内膜上皮細胞における熱ショックタンパク質および抗酸化酵素の発現は低下し,炎症性サイトカインの発現は増加することが示唆された。
【目的】反芻動物では着床前の受胎産物がインターフェロン・タウ(IFNT)を分泌し,子宮内膜でIFN誘導性遺伝子群(ISGs)を誘導する。我々は,これまでにISG15などの代表的ISGsが子宮頸管粘膜組織においても妊娠18日に子宮内膜での発現に匹敵する発現増加を示すことを明らかにした。子宮頸管粘膜(CMF)のサンプリングは簡便かつ生体に対して低侵襲的であるため,この知見を基に人工授精後最初に発情が回帰する21日までの早期妊娠判定への応用が進められている。一方,ISGsを指標とした場合の判定精度を上げる際には,ウイルス感染によるIFN経路の活性化による非妊娠ISGsの増加可能性の考慮も必要であり,そのため,IFN経路に依存しない妊娠応答遺伝子の探索が必要である。我々がこれまで実施したCMFのRNAシーケンス解析では,妊娠時18日の発現上昇遺伝子の多くがISGsであった一方,妊娠時の発現低下遺伝子群にはIFNTのような共通の制御因子を持つと考えられるものが存在しなかった。そのため,本研究では子宮頸管粘膜組織における妊娠時発現低下遺伝子の検出を目的とした。【方法】人工授精(AI)実施から14,18,24日が経過したホルスタイン種乳用牛の生体からCMFを綿棒で軽くこすり取ることで採取し,AI後30日及び40日の超音波診断による妊娠診断結果より各サンプルを「非妊娠区」「妊娠区」に分別した。採取したCMFからRNA抽出およびcDNA合成を行った。これまでのRNAシーケンス解析により,妊娠18日における発現低下を示した遺伝子を複数選択し,それらについて作成したプライマーを用いてAI後14,18,24日それぞれのサンプルでリアルタイムPCRを行い各遺伝子の発現量を測定した。【結果と考察】リアルタイムPCRの結果,AI後18日の妊娠時発現低下遺伝子としてIGFBP3,FOS,EGR1を検出し,これらの遺伝子が妊娠判定の指標遺伝子として有用である可能性を示した。
【目的】ウシの着床過程では,授精後18日前後をピークとして,胚の栄養外胚葉からインターフェロン・タウ(IFNT)が分泌される。IFNTは母体の子宮内膜に作用し,JAK-STAT経路を介してIFN誘導性遺伝子(ISGs)の発現を誘導する。我々はこれまでに,子宮外組織である子宮頸部粘膜組織(CMM)においても妊娠特異的なISGsの高発現を見出した。しかし,IFNTの存在が直接的に示されているのは子宮内のみであり,IFNTがCMMにおけるISGs発現にどのように関与するのかは不明である。そこで本研究では,CMMへのIFNT移行の有無,ならびにCMMにおけるISGsの発現機序を明らかにすることを目的とした。【方法】非妊娠(np)および妊娠(p)ホルスタイン種搾乳ウシ由来CMMを,AI実施後14日目(d14),18日目(d18)および25日目(d25)において低侵襲的に採取後,RNAおよびタンパク質を抽出した。IFNTの検出は,抗IFNT抗体を用いウェスタンブロッティング(WB)にて行った。加えて,np-, p-CMMと共培養したnp-ウシ末梢血白血球(PBL)におけるISG15発現を解析し,p-CMMのI型IFN活性を評価した。次に,定量PCRによりJAK-STAT経路関連因子の継時的な遺伝子発現動態を,またWBにより着床前におけるSTAT1活性化状態を評価した。【結果】p-d18のCMM由来タンパク質成分より,IFNTのバンドが検出された。加えて,CMM-PBL共培養実験では,np-d18のCMMと比較して,p-d18のCMMと共培養したPBLにおけるISG15発現が顕著に増加した。さらに,p-d18のCMMでは,STAT1, STAT2, IRF9発現および,JAK-STAT経路の活性化を示すリン酸化STAT1の発現が顕著に増加した。以上の結果から,子宮頸部における着床前特異的ISGs発現は,胚由来因子IFNTが子宮外へ移行し,JAK-STAT経路を活性化することにより誘導されることが明らかとなった。
We have demonstrated that the levels of lysosomal Cathepsin B (CTSB) transcript was significantly higher in trophectoderm (TE) than inner cell mass (ICM) of bovine blastocyst, whereas CTSB activity was significantly higher in ICM than TE. In the present study, we investigated the opposite expression pattern of CTSB gene and protein in blastocyst. CTSB protein distribution in IVF derived blastocyst was achieved by immunostaining. Supported by activity, CTSB protein was clearly localized in the cytoplasm and significantly higher in ICM than TE. Therefore, we hypothesized the opposite expression pattern was caused by the different turnover of CTSB by consuming of mRNA in ICM and TE. On day7, the blastocysts were treated by cycloheximide (CHX) for 2 h to block protein synthesis followed by re-cultured in KSOM. After that, total RNA amount was detected by Acridine Orange (AO) staining in whole blastocyst. CHX treatment increased the total RNA amount, especially in ICM. In the next experiment, CTSB was quantified in separated ICM and TE by micro blade dissection after CHX treatment. CTSB abundance was significantly increased in CHX-treated ICM compared to control ICM, whereas no difference in CHX-treated TE than control TE. Importantly, the increasing ratio of CTSB transcript was significantly increased in ICM than TE between CHX-treated and control group. Taken together, these results suggest that low CTSB level in ICM than TE is not caused the down regulation of CTSB gene, but the high turnover of CTSB used for protein synthesis and enzymatic activity for potential role of differentiation.
【目的】夏季の暑熱ストレスに伴い引き起こされる酸化ストレスは,人工授精受胎率低下など,家畜の繁殖性に悪影響を及ぼすことが知られている。これまでに,ウシの卵子や卵巣の機能,胚発生などに異常をきたすことが報告されているが,母体子宮に関しては暑熱ストレスにより酸化ストレスが引き起こされるかどうかは不明である。一方子宮は,妊娠成立過程において着床の場となる重要な組織であり,正常な受胎の前提条件として,子宮が健全であることが必須である。本研究では,子宮においても暑熱ストレスに伴い酸化ストレスが引き起こされるかを検証した。【方法】と場由来のウシ子宮組織から子宮内膜上皮細胞を単離,培養した。単離した上皮細胞を牛の平常時の体温である38.5℃および暑熱時の体温である40.5℃の暑熱条件下で12時間培養した後,CellROX® Green Reagentを用いて,マイクロプレートリーダーでの蛍光強度測定および蛍光顕微鏡により活性酸素種(ROS)を検出した。また,同様に培養した細胞からRNA抽出,cDNA合成を行い,リアルタイムPCRにより,酸化ストレスの指標である抗酸化酵素の遺伝子; SOD(スーパーオキシドジスムターゼ),GPX(グルタチオンペルオキシダーゼ),CAT(カタラーゼ)の発現量解析を行った。SODについては,CuZnSODおよびMnSODの2種類の遺伝子を解析した。【結果と考察】蛍光強度には暑熱負荷による影響はなかった。蛍光シグナルの観察では細胞の核と細胞質の両方において強い蛍光シグナルがみとめられた。抗酸化酵素の遺伝子の発現量は,MnSOD,GPX,CAT遺伝子の発現量に有意な影響はみられなかったが,CuZnSOD遺伝子の発現量は暑熱負荷により有意に増加した。これらの結果から,12時間の暑熱負荷培養により,ウシ子宮内膜上皮細胞で酸化ストレスが引き起こされたことが示唆された。
【目的】カテプシンB(CTSB)はリソソームプロテアーゼであり,細胞内消化や細胞死に関与する。我々は,これまでにウシ卵子・胚の品質の程度や暑熱曝露の有無によるCTSBの動態変化を明らかにし,卵子・胚の品質や障害指標としての利用可能性を提示した。CTSBを指標としたガラス化保存による障害評価はウシ卵子やヒツジ卵子で報告されているが,ウシ胚盤胞では未報告である。ウシ胚盤胞では,ガラス化保存を含む凍結保存により,胚内側の内部細胞塊(ICM)と比べて,胚外側の栄養外胚葉(TE)における高頻度のDNA損傷が報告されていることから,ガラス化保存ウシ胚盤胞のTEにおける障害評価が重要であると考えられる。本研究ではウシ胚盤胞のTEにおいて,ガラス化保存による障害とCTSBの関連性解明を目的とした。【方法】体外受精・発生させたウシ胚盤胞をガラス化保存し,加温・回復培養に供した後の生存胚を実験に用いた。まず,Magic Red®によるCTSB活性検出とTUNEL染色をガラス化保存胚盤胞全体で行った。その後,定量的な解析を行うため,ブレードを用いた顕微操作により胚盤胞をICMとTEに切断分離し,単離したTEにおけるCTSB活性の測定およびqPCRによるCTSB遺伝子の発現解析を行った。また,CTSBとアポトーシスとの関連が報告されていることから,アポトーシス関連遺伝子も同時に発現解析を行った。【結果】ガラス化によってウシ胚盤胞全体のDNA損傷レベルが上昇した。また,無処理対照胚と比較して,ガラス化保存胚盤胞のTEにおけるCTSB活性の上昇が観察され,この結果は単離したTE単独においても同様であった。さらに,ガラス化保存後単離TEにおいて,CTSB遺伝子とアポトーシス関連遺伝子(BAX, CASPASE-9, CASPASE-3)の発現上昇が確認された。これらの結果から,ガラス化保存によりウシ胚盤胞のTEにおけるCTSBの遺伝子発現および細胞内活性が上昇し,ミトコンドリアを介したアポトーシスが亢進されたことが示唆された。
インターフェロン-τ(IFN-τ:195 aa)は反芻動物特異的に分泌される分子であり、妊娠認識及び妊娠の成立に重要な役割を持っている。IFN-τの研究には組換え体が用いられている。しかし、組換え体は作製、入手の難しさや様々な法律による生体投与への使用制限のため、生体研究の妨げとなっている。そこで、本研究では組換え体に変わるIFN-τ構成ペプチドを化学合成し、活性リガンド部位の探索並びに、効果の評価検証を目的とした。IFN-τのアミノ酸配列や立体構造を考慮し、11種のペプチド(長鎖:27-28 aa, 短鎖:7-17 aa)を化学合成した。先ず、ペプチドを培養子宮内膜間質細胞に添加し、インターフェロン刺激遺伝子(ISGs)の遺伝子発現量を測定することでIFN-τ活性の有無を評価した。次に、組換えIFN-τとペプチドを同時に添加することでペプチドとIFN-τの競合を評価した。組換えIFN-τの添加によってISGsの発現量の増加がみられたが、合成ペプチドの添加による増加はみられなかった。また、組換えIFN-τとペプチドの同時添加によるISGsの抑制もみられなかった。そのため、今回合成したペプチドは活性リガンド領域を有していない、もしくは立体構造が変化したため、受容体への結合能を十分に有していないことが示唆された。
【目的】反芻動物特異的な妊娠認識物質であるインターフェロン・タウ(IFNT)は着床前後期には母体子宮内膜においてIFN誘導遺伝子群(ISGs)の発現を誘導する。ISGsは妊娠認識や着床に関与するとともに,早期受胎判定としての利活用も期待されている。我々はこれまでに,ISGsの一種であるISG15, MX1, MX2が外子宮口内腔および腟底部壁の粘膜組織においても妊娠特異的な高発現誘導を示すことを明らかにしたが,子宮外組織における他の妊娠応答遺伝子に関する知見はない。そこで子宮外組織における網羅的な遺伝子発現解析をもとにウシ子宮外組織における妊娠応答遺伝子の探索と妊娠検出を目的とした。【方法】人工授精(AI)実施後,18日後のホルスタイン種乳用牛から採取した外子宮口粘膜(CM)における発現解析をRNA-seqにより行い,候補遺伝子としてinterferon-induced protein with tetratricopeptide repeats 1(IFIT1)を選出した。AI後14,18,24日目に同組織の採取を行い,妊娠の成否はAI後30日目と45日目の妊娠診断で判断した。またIFNT誘導性を検証するために,食肉公社から採取した非妊娠ウシCM組織を採取・細切後,組み換えウシIFNTを添加して24時間培養しIFIT1発現を解析した。【結果】AI後18日目に採取したCMにおいては,IFIT1が非妊娠サンプルと比較して妊娠サンプルで発現量の増加傾向がみられた。さらに14,18,24日目におけるIFIT1の遺伝子発現の経時的変化を調べたところ,IFNT産生ピークである18日目を頂点とした挙動を示した。また,IFIT1のIFNT誘導性については,IFNT添加CMで発現量が増加する傾向があった。これらの結果から妊娠初期のCMにおけるIFIT1発現にはIFNTの関与ならびに早期妊娠応答の新たな指標の可能性が示唆された。
【目的】性選別精液とは,X染色体を持つ精子(雌)とY染色体を持つ精子(雄)のDNA含量の違いから,特定染色体を持つ精子を高率に選別したものである。酪農において,X染色体性選別精液の利用による計画的雌畜生産は,経営面および育種改良面においてメリットが大きい。しかし,一般に,性選別精液の受胎率は低く,通常精液の75から80%といわれている。性選別精液の受胎率向上のためには,通常精液と性選別精液の性質の違いを把握した適切な使用が求められる。受胎率を含む繁殖形質は遺伝率が低く,環境要因による影響が大きいことから,環境要因から受ける影響の理解が極めて重要になる。よって本研究では,性選別精液の環境要因側の特性を理解すべく,道内の酪農家で実施された過去4年間の人工授精(AI)成績を含むフィールドデータを分析した。【方法】北海道酪農検定検査協会で集積された道内ホルスタイン種雌牛の個体繁殖成績を使用した。分析対象は,2012から2015年までの国産乳牛精液による未経産牛69,857頭分の初回授精記録とした。分析環境要因は,授精年,授精月,および授精月齢とした。【結果と考察】通常精液,性選別精液ともに6から9月にかけて受胎率が低下していた。各精液種の受胎率低下をより詳細に分析するため,各月の受胎率と全月平均受胎率の差を分析すると,7および8月では,性選別精液のみで有意な低下がみられた。一般に,受胎の成否には,精子と卵母細胞の受精可能時間が重複するタイミングでのAIが重要となる。しかし,母体は暑熱ストレスを受けると発情の微弱化や乱れが生じ,AI適期の把握が困難となる。夏期におけるAI適期の齟齬は,受胎率の低下を引き起こすことが知られているが,性選別精液は通常精液に比べて精子生存性が低く,受胎不成立の頻度が高まったと推測された。以上より,性選別精液を用いた7および8月のAI受胎率は,通常精液に比べ,より顕著に低下することが判明した。
【目的】夏期の暑熱ストレスは,人工授精受胎率低下を引き起こすなど,家畜繁殖性に悪影響を与えることが知られている。これまでに,ウシの卵子や卵巣,胚に対する暑熱ストレスの影響は報告されているが,母体子宮への影響は不明である。ウシを含む反芻動物の妊娠認識および成立はインターフェロン・タウ(IFNT)が役割を担う。IFNTは孵化後の胚から産生され,子宮内膜上の I 型IFN受容体(IFNAR)を介して働き,黄体退行を抑制する。また,インターフェロン誘導性因子(ISGs)の発現を誘導する。本研究ではこの妊娠認識に着目し,子宮内膜上皮細胞におけるIFNT応答性を暑熱負荷培養条件下で評価し,子宮への暑熱ストレスの影響を検証した。【方法】食肉検査場由来ウシ子宮から子宮内膜組織を採取し,上皮細胞を単離,培養した。単離した上皮細胞をウシの平常時の体温である38.5 ℃および暑熱時の体温である40.5 ℃の暑熱条件下で3,6,12時間培養後,RNA抽出,cDNA合成を行い,定量PCRにより暑熱ストレス指標である熱ショックタンパク質(HSP)群の発現を解析した。また,上皮細胞を同様の暑熱負荷条件下にて組換えウシIFNT(500 IU)を添加し12時間培養した。各処理区において定量PCRによるISGs(ISG15, MX1a)およびIFNAR(IFNAR1, IFNAR2)の発現解析を行った。【結果と考察】HSPのmRNA発現量は,12時間の暑熱負荷によりHSP27, 60, 90の全てが対照区と比べ有意に上昇した。この結果から,12時間の暑熱処理により,細胞への十分なストレス負荷が確認された。ISGs の発現はIFNT添加により有意に増加したが,暑熱負荷による影響はみられなかった。また,IFNAR発現へのIFNT添加および暑熱の影響もみとめられなかった。以上より,培養子宮上皮細胞でのIFNAR発現およびIFNTによるISGs(ISG15, MX1a)発現への暑熱ストレスの影響は少ないことが示唆された。
【目的】哺乳動物胚は桑実期から胚盤胞期にかけて内部細胞塊(ICM)と栄養外胚葉(TE)へ分化する。この過程において接触阻害を担うシグナル伝達系Hippo経路が重要な役割を果たすことがマウス胚で知られている。Hippo経路のエフェクターである転写コアクチベーターYAPとTAZが転写因子TEAD4と協調することにより,TEマーカーであるCdx2の転写を制御する。ウシ胚でもHippo経路がICM/TE分化に関与するといわれているが,詳細はわかっていない。さらに,哺乳類初期胚におけるYAPの解析は多いものの,YAPのパラログであるTAZについての知見は乏しい。そこで本研究では,ウシ初期胚におけるTAZ発現の役割を調べることを目的とした。【方法】食肉検査場由来のウシ卵巣から卵丘細胞−卵母細胞複合体を吸引採取し,定法に従い体外成熟,体外受精および体外培養に供しウシ胚を作出した。定量PCR,免疫染色により,卵母細胞および初期胚におけるTAZ遺伝子およびタンパク質の発現動態を調べた。続いて,TAZを標的としたshRNA発現ベクターを1細胞期胚に顕微注入しTAZ発現抑制(KD)胚を作出した。また,定量PCRおよび免疫染色により胚盤胞期におけるTEAD4やCDX2などのICM/TE分化関連遺伝子のmRNA発現,およびCDX2タンパク質のシグナル強度の変化を調べた。【結果】ウシ初期胚発生過程においてTAZ mRNA発現レベルは16細胞期で最も高く,TAZタンパク質発現は,16細胞期以降で核内での強いシグナルが観察された。TAZ KD胚の胚盤胞期までの発生率は,コントロールと比較し有意差は認められなかった。TEAD4およびCDX2発現レベルはコントロールと比較しTAZ KD胚で有意に低下し,CDX2タンパク質もシグナルの減衰が認められた。以上の結果から,ウシ初期胚発生におけるTAZ遺伝子およびタンパク質発現動態および,TAZ遺伝子発現抑制が分化関連遺伝子の発現に影響を及ぼすことが明らかとなった。
【目的】乳牛における周産期疾病の予防は重要な課題である。特に分娩前後3週間の移行期において,分娩に伴う代謝変動や免疫状態の変化が研究,報告されている。本研究では,分娩がウシ母体に及ぼす影響を評価するため,分娩前後の末梢血単核球を用いてストレスおよび免疫関状態を評価することを目的とした。【材料と方法】北海道大学農場で飼養しているホルスタイン雌牛を用いた。分娩前後24時間および分娩後一週間の三時点で頚静脈から血液を採取し,密度勾配遠心法により末梢血単核球(PBMCs)を分離した。PBMCsからRNA抽出,cDNA合成を行い,定量PCRによりストレス関連遺伝子および炎症性サイトカイン遺伝子の発現解析を行った。また,同様に得られたPBMCsをマイトジェン(ConcanavalinA, ConA)添加および無添加条件で培養し,72時間後に幼若化反応をMTTアッセイ法により検証した。【結果と考察】抗酸化酵素GPX4, CuZnSOD, および炎症性サイトカインIL-2, IL-6, TNFAの発現が,分娩後に採取したPBMCsにおいて分娩前に採取したものと比較して増加していた。PBMCsの増殖性自体は試験期間を通して変化はみとめられなかった。一方,リンパ球の幼若化反応は,分娩直後のウシから採取したPBMCsでは,ConAの刺激下においても変化はみとめられなかったが,分娩直後および一週間後に有意に上昇していた。本研究より,分娩後24時間以内においてストレスおよび免疫関連遺伝子の発現が変化すること,および分娩前においては免疫応答能が低下しており,分娩後の回復を示唆する結果を得た。
【目的】着床前のウシ子宮では,胚より分泌されるインターフェロンタウ(IFN-τ)が,IFNAR1(R1)とIFNAR2(R2)の二量体で構成されるI型IFN受容体を介したJAK/STAT経路によってIFN誘導性遺伝子(ISGs)の発現を誘導する。しかし,ウシ子宮におけるIFN-τシグナルの受容体サブユニット依存的なISGs発現調節機構は不明である。本研究では,ウシ子宮内膜上皮細胞におけるI型IFN受容体サブユニットの発現抑制がIFN-τ刺激による遺伝子発現へ及ぼす影響を検証した。【材料と方法】食肉処理場より採材したウシ子宮内膜組織由来の初代培養細胞を実験に供試した。細胞にR1またはR2のsiRNAを導入しRNA干渉した。導入24時間後のR1,R2の発現抑制効果を定量PCRで検証した。さらに,siRNA導入24時間後に組換えウシIFN-τを添加し,12および24時間後の1)抗ウイルス能(MX1,2,ISG15),2)IFNシグナル伝達制御(STAT1,2,IRF1,2,3,9),3)I型IFN受容体発現の維持(COPS5)および4)着床時の細胞増殖(TGF-β1,2)に関連する遺伝子群の発現量を定量PCRで解析した。【結果と考察】R1またはR2のsiRNA導入によるRNA干渉はR1,R2の発現をそれぞれ特異的に抑制した。R1またはR2の発現抑制はIFN-τによるMX1,2,ISG15,STAT1,2,IRF1,2,3,9,COPS5発現の誘導を有意に抑制した。特に,R2と比べてR1抑制時に高い発現抑制効果を示した。TGF-β1,2の発現については,R1,R2の発現抑制による影響は見られず,JAK/STATシグナルから直接制御されない可能性が示唆された。【結論】IFN-τのIFNARを介したJAK/STAT経路にはR1依存的なシグナル伝達機構が存在することが明らかとなった。
【目的】哺乳類において三倍体や四倍体の多倍体胚は胎生致死となる。また,片親性発現を示すインプリント遺伝子の正常な発現は哺乳類の個体発生に必須であり,過去にマウス三倍体胎子におけるインプリント遺伝子発現異常を確認している(Yamazaki et al., 2015)。インプリント遺伝子発現の主要な制御機構として,父母ゲノムの性特異的なDNAメチル化修飾が知られ,メチル化修飾を受ける領域はメチル化可変領域(DMR)と呼ばれる。植物ではゲノム多倍体化によりDNAメチル化レベルが変化するが,哺乳類ゲノムでは倍数性とDNAメチル化レベルの関係は不明である。そこで,本研究では,マウス四倍体および三倍体胎子について,インプリント遺伝子のDMRメチル化レベルと発現レベルを解析した。【方法】マウス四倍体胚は二細胞期胚における電気融合法により作出した。三倍体胚は前核期卵の核移植により作出した。胎齢10.5日で回収した胎子からRNA,DNAを抽出し,H19,Gtl2,Igf2r,Grb10,Zim1,Igf2,Dlk1,Peg3,Snrpn,Ndn,Ipwの11インプリント遺伝子の定量PCRを行った。さらに,バイサルファイトシークエンスにより4か所のDMR(H19-,IG-,Igf2r-,Snrpn-)のメチル化解析を実施し,アリル発現解析(Igf2,Gtl2,Dlk1)も行った。【結果および考察】マウス四倍体胎子のインプリント遺伝子発現レベルを二倍体胎子と比較すると,9遺伝子で発現レベルが有意に変化していた。しかしながら,解析した4か所のDMRメチル化レベルは,四倍体,三倍体胎子共に性特異的なメチル化様式を維持していた。また,四倍体胎子におけるアリル発現解析においても,解析した3遺伝子については片親性発現を維持していた。これらの結果から,マウス胚の多倍体化はインプリント遺伝子発現には影響を及ぼすものの,DMRメチル化状態,および,片親性発現の維持には影響を及ぼさないことが明らかとなった。