吉田 広志 Intellectual property management 60- (1) 93 -99 2010
[Not refereed][Not invited] 本判決の特徴は,職務発明について従業者が受ける対価の算定のベースとなる「使用者が受けるべき利益」(以下,適宜「受けるべき利益」)の算定に関し,使用者によって発明が実施された場合には,問題となっている特許権を放棄した後も,競合他者が当該発明を実施するに至るまでの相応の期間内は,事実上,引き続き排他的利益を受けることが可能であり,相当対価の算定の対象となると判示したところにある。従来の裁判例は,放棄等特許権消滅後に生じた使用者の利益を受けるべき利益に算入するもの,しないものに分かれている。しかし本稿は,インセンティヴ論の下,職務発明を承継した使用者には発明の利用について高度の裁量を与えるべきという観点から,使用者が競争上合理的に行動している限り,使用者が得た利益は,そのまま「受けるべき利益」と推認すべきと考えている。反対に,従業者に支払うべき対価を安価に抑えるために,競争上の不利を承知の上で特許権を放棄したような場合はおよそ合理的行動とはいえず,算定の対象から除外すべきでないと考えている。本判決は,使用者が特許権を放棄した理由について検討した後に結論に至っており,その点から支持すべきものと考えられる。〈参照条文〉特許法(平16法79号による改正前のもの)35条